『アルジャーノンに花束を』
人間の知能の価値を問い、家族のあり方を考えさせられ、幸せの意味に悩まされる名作です。
結婚前に読んだ時と親になってから読んだのとでは、感じ方が大きく変わりました。
32歳の主人公チャーリーは6歳程度の知能しかない知的障害者ですが、本人の「賢くなりたい」という希望通り、知能を上げる科学実験の被験者として手術を受けます。
次第にIQが上がり大学教授をも凌ぐ賢さを手に入れたチャーリーですが、それまで気付きもしなかった人々の気持ちや世の中の問題が分かるようになり、苦しむことに、、、。
- 作者: ダニエル・キイス,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/03/13
- メディア: 文庫
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例えば富、名声、美貌、知能などなど…人が望むものは様々で際限がないけれど、それが手に入ることで必ずしも幸せになれるとは限りません。
この作品では、愚かでも人々に囲まれて生きるチャーリーと、賢くても人々と反発し合いながら生きるチャーリーが対比的に描かれており、
人の幸せとは一体何だろう?
賢さが何の役に立つのだろう?
…と問われるかのようでした。
果たしてチャーリーは、愚かなままのほうが幸せだったのか、賢くなって人生経験を積めてよかったのか、、、その答えは簡単には分かりません。
私が読んでいて特に心に突き刺さったのは、チャーリーと周りの人々との関わり、とりわけ父親・母親それぞれとの関係です。
チャーリーを愛したいけれど愛しきることができず離れていった母親を、私も昔なら簡単に悪者と見てしまったかもしれません。
けれど今では、我が子に寄せてしまう期待が叶わないことへの葛藤や、目の前の家族を守らなくてはという焦燥感が、母親の素直な苦しさなのだろうな…と少し分かる気がしてしまいました。
(母親からチャーリーへの仕打ちの可否は別として)
父と母の我が子への考え方の相違が、夫婦関係にもたらす影響もリアルでした。
子供への愛は、時には諸刃の剣ともなりうる複雑さをはらんでいることがよく分かります。
賢くなったチャーリーが父親に会いに行く場面、母親に会いに行く場面は、それぞれいつ読んでも心がヒリヒリしてこみ上げるものがあります。
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この作品の評価されるべきポイントのひとつは、主人公チャーリー自らが書いた手記という形で物語が進んでいくところでしょう。
チャーリーの知能の変化によって文章の書かれ方が変わっていくのです。
ドラマにもなったようですが、文章表記がチャーリーの頭脳や心情を巧妙に表現しているので、これは間違いなく活字でも読んだ方が良い作品だと思います。