とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

三浦しをん『舟を編む』

だいぶ前ですが、巷で話題になっていた小説を私も読んでみました。
これも実写ドラマ化したようですね。
何でもかんでも映像にしてしまうなんて実に勿体ないと思いませんか。


舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)


ある出版社で大型国語辞典を出版することになり、編集室の新たな人材として冴えない若手社員・マジメ氏が抜擢されました。
長期に渡り人々に愛される辞書をつくるために、マジメ氏をはじめ編集部員は心魂をそそぎますが、前途多難で様々な問題にぶち当たります。
果たして国語辞典は出版に漕ぎ着けることができるのか…。

辞書をつくるということは、他の書物を出版するのと比べてかなり異質なようです。
時間と経費がかかるわりに地味であり、部数が沢山出るわけでもなく。
ですが一つ最高の辞書を出版することができれば、その出版社は今後 永きにわたり安泰とも言われるそうです。

そんな辞書の編集の裏側を知ることができるのが、まず純粋にこの物語のおもしろさでした。

監修者にどんな教授の名前を載せるのか。
単語の説明の言い回しをほんの少しいじるだけでどう変わるのか。
校正にどれだけの時間と神経をつかうのか。
辞書に適した紙はどんなものなのか。
等々、一冊の辞書は多くの人の汗と涙と知性と労力の結晶です。

そんな特異な辞書編集をするうち、主人公マジメ氏の、言葉や辞書に対する貪欲さがどんどん育っていきます。
特に印刷する紙への彼のこだわりはマニアックで、「触ったときの指に張り付く感じが、粘りけが足りない‼」と製紙会社とやりあったときのエピソードには、思わず萌えてしまいました。


また変わり者で冴えない主人公マジメ氏を筆頭に、編集室には年齢・経歴が様々な、ヒトクセもフタクセもある関係者が集まってきます。
辞書の編集を通した人間関係も、心温まるものから痛快なものまで、信頼、恋慕、失望と色々なドラマがありました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

舟を編む』自体の装丁は普通の文庫本なのですが、表紙が失敗だったなぁと悔しく思います。
本編で語られる辞書のイメージに対して、カラフルで漫画チックで、あまりに低俗ではないかと思います。

装丁も含めた書物の編集について物語では語られていたので、それを読んだあとにこの表紙を見てしまうと、なんとも苦々しい気分になります。