梯久美子『散るぞ悲しき』
戦記にも様々な形態がありますが、第二次世界大戦で硫黄島総指揮官として戦地に赴いた栗林忠道中将の、主に家族へ宛てた手紙と関係者へのインタビューでドキュメンタリー形式にまとめられています。
軍人本人の手紙を通した主観的な重みと、淡々と語られる客観的事実のバランスが絶妙で、戦記といっても高い文学性を感じました。
さらに血生臭い具体的な描写はあまりないのに、この闘いの悲惨さがよく分かります。
兵士たちへの哀悼や感謝の念が込み上げてきて、心に迫ります。
- 作者: 梯久美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/07/29
- メディア: 文庫
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栗林中将は【公】では冷徹で合理的、【私】では合理的なうえに温かく人情に厚い人物だったそうですが、その人間性が手紙から溢れていました。
特に家族に対しては、平和ボケした私の知らない種類の、ギリギリのところで命を賭けた深い愛情があります。
戦争や軍人というとどこか遠いものに感じるけれど、一人ひとりが私たちと何ら変わらない家族をもつ個々の人間なんだと改めて思い知らされました。
取るに足りないような小さな硫黄島での闘いが何故これほどまでに重要だったのか、あまり知られていないそうです。
栗林の戦術がどう功を奏したのかなど、興味深い史実も深く知ることができます。
特に印象に残ったのは、壮絶な飢えと渇きの中で、硫黄島の地下で繰り広げられた戦線の描写です。
気がおかしくなるほどの環境で長期間、圧倒的に不利な状況にも関わらず日本兵は地面の下で踏ん張りました。
それもただ一重に本国を守るという切なる目標のために、、、も関わらず、栗林の決死の覚悟は思わぬ形で裏切られることになるわけです。
栗林の無念を思うとやりきれません。
国の為 重き努を果し得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき
(総攻撃前に大本営に向けた電報より)
もし私の生まれた時代が少しずれていて、同じように家族を戦地に送り出さなければならない立場だったらどうだろう?と想像しただけで、胸が張り裂けそうになりました。
戦記といえば国や歴史を俯瞰した「記録」的な読み物が多い中、本書のように特定の人物に焦点を絞ることによって、感情移入や臨場感から、戦争の悲劇を思い知らされます。
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
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