石川拓治『奇跡のリンゴ』
いつも何気なく食べているリンゴですが、実は収穫されるまでに多くの害虫や病気にさらされる作物で、非常に多種類・大量の農薬が必要だそうです。
そんなリンゴを、リンゴ史始まって以来の無農薬で育てて収穫するという前人未到をやってのけた農家・木村秋則氏の話です。
ライターの石川拓治氏が取材しまとめたルポになっています。
先月青森に行ったのに加え、最近ではリンゴがスーパーにも並び始めたので、リンゴの話を振り返ろうと思いました。🍎
- 作者: 石川拓治 NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/04/19
- メディア: Kindle版
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木村さんはとにかく本当に苦労をされて、貧の底にまで落ち、人々から嘲笑され、死ぬ間際まで追い詰められながら偉業を成し遂げました。
死ぬ間際というのは誇張ではなく、実際に自殺をしにいった森の中で、リンゴ農家としての転機を迎えたのです。
木村さんが成し遂げた「リンゴ無農薬栽培」ももちろん素晴らしいけれど、そこに行き着くまでの中で試行錯誤したこと、観察眼や気づき、自然に対する謙虚さ、そして何より想像を絶する努力には、読者である自分が感化されたり感動したりすることが多くありました。
何度もリンゴを枯らし挫けそうになりながらも、長い月日をかけて、命がけで育てたリンゴが、ついに花を咲かせるシーンでは感情移入してしまいます。
そこに行き着くまでが詳しく書かれていますが、とにかく壮絶です。
木村さんが無農薬栽培に挑戦するなかで悟ったことは、農業のみならず人が生きている上であらゆることに通じることばかりでした。
「一つのことに狂えば何かが開ける」
「価値あるものこそ低価格にして多くの人に」
「見えるところにばかり目を向けない」
「すべてが支え合って生きている」
「自分は何ひとつやっていない(自然の力がやってくれた)」
どこかで聞いたことのありそうなセリフかもしれませんが、木村さんの人生の中で聞くと、その言葉の深い意味はズシンと重みが増します。
人類史上にのぼるような大きな発見や成功をした人というのは沢山いますが、共通して
①人知を越えた自然の力に謙虚である
②どん底で最悪のところで何かを得て逆転する
③本人の人格やまわりの人運に恵まれている
…というのを伝記や自伝なんかを読むといつも感じ、木村さんも例外ではありませんでした。
食糧自給率の低い日本では、ひょっとしたら農業の話など興味のない方が多いかもしれません。
しかし本書は農業の話と言うよりも、困難を成し遂げる仕事や生き方と、自然と人間の関係に焦点をあてているため、農業にとどまらないスケールです。
一般書評などでは木村さんに否定的な意見もあるようですが、批判する人には何か一つでも徹底的に極めてから言ってほしいと反論したくなります。
、、、さて本書で残念なのは、取材をした著者の主観や講釈がかなり含まれてしまっているということです。
木村さんご自身の言葉で書かれた著書『リンゴが教えてくれたこと』もあるので、こちらも併読するとまた違った視点で理解できることもあるかもしれません。
- 作者: 木村秋則
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/06/04
- メディア: 文庫
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他人から非難され嘲笑されても信念を曲げず正しいと思うことを成し遂げる木村さんの姿勢は、まるでノアの方舟のようだと連想していたらその通りのオチでした。
最後だけちょっとズッコケそうになりました。