都築響一『捨てられないTシャツ』(準新刊)
ボロボロになっても捨てられないTシャツを、多くの方が1枚や2枚は持っているのではないでしょうか。
そんな老若男女70人の「捨てられない」Tシャツの写真と、そこに絡めた人生のエピソードが結集し綴られています。
一般の方から著名人まで様々な方のTシャツが紹介されていますが、デザインやサイズ、ブランドや価格帯も様々で、きれいなまま保管されているものもあれば汚れきったものもあります。
- 作者: 都築響一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/05/25
- メディア: 単行本
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正直なところ前書きを読んでも、なぜTシャツに着眼したのかそのコンセプトが見えなかったのですが(書いてはあった)、まず自分なりにTシャツについて考えてみれば、なるほど確かに深いのかもしれないと思いました。
Tシャツをれっきとしたオシャレ着とする人もいれば、下着や部屋着として人目につかないように着る人もいます。
ブランドTシャツは5桁もの値段がつくものもあれば、極端な話 100円ショップで買うこともできます。
全く見た目はステキじゃないのに、タンスを開けるとなぜかいつも手を伸ばしてしまうTシャツもあります。
同じ木綿地でも無地を好む人、プリント内容で価値を見いだす人…実に様々です。
そんなTシャツの奥深さを感じる一方で、本書が私にとって期待はずれだったのは、持ち主それぞれのTシャツ哲学を人生と絡めて語ってくれるのかと思いきや、私がイメージしていたまとめ方ではなかったことです。
もういっそ、「Tシャツは身体と外界を隔てるものだから、いわば第二の皮膚であり云々」とか、「このTシャツは自分で染めたものだが、染色とは自然発生的な意匠なので云々」…みたいなマニアックなものを期待していました(笑)
どちらかというと、Tシャツ抜きの持ち主の人生の概要が紹介されたあとに、唐突にこのTシャツをいつどのように入手し
どんな思い入れがあるのかエピソードが書かれただけ、といった印象でした。
しかし先に触れたような様々なTシャツ観があるなかで、持ち主それぞれにとってどんな付加価値が乗せられているかというのは、やはりそれぞれの人生抜きには語れないのでしょう。
私の肌には合わない読み物でしたが、本書は雑誌か何かのダイジェストだったのもあり発売直後から人気があったようです。
それだけ他人の人生や、Tシャツというアイコンに興味をもつ読者が多いということなのかもしれません。
(私も図書館で予約して数ヵ月待ちました)
Tシャツ哲学を期待して読むと期待外れですが、純粋にエッセイや自伝の短編集として読めば、確かに中には面白いエピソードもありました。
海外で買ったお気に入りTシャツがあったが、職場である日 声をかけてきた冴えないオバチャンが着ているのを見て、それ以来着ていない…というのが、皮肉が効いていて中でも私の一番のお気に入りです。
この本は正方形の変型版でカラー刷り、Tシャツというテーマともあいまって、持っているだけでファッショナブルな感じがします。
Tシャツのビジュアルを楽しむのもよし、様々な人物の人生に触れるのもよし、自分の人生とTシャツを書き添えるのもよし(?)。
パラパラとめくりながら、読者に合った楽しみ方ができそうです。
Tシャツ関連でファッションを連想しますが、「着る」ことの哲学として思い浮かべる小説に『カエアンの聖衣』という小説があります。
面白かったかどうかは置いておいて、そのうちまたご紹介したいと思います。
- 作者: バリントン・J・ベイリー,大森望
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/03/24
- メディア: 文庫
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