とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

食育以前に読んでおきたい「食」の本③~ブリア・サバラン『美味礼讃』

『美味礼讃』は約200年も前のフランス革命の時代に書かれた「食」の評論です。
著者のサバランは司法・政治に関わる有識者で美食家ですが、単なる料理評論や美食自慢にとどまらず、人間にとっての「食べること」を多面的に語り進めていきます。

私はガストロノミー【美味学】ということばを本書で知りましたが、ここには生理・歴史・文化・哲学…と様々な視点が含まれていて、ひとつの立派な学問分野になるほど深いです。

美食家は単なる成金や贅沢者ではないと思えました。


美味礼讃 (上) (岩波文庫 赤 524-1)

美味礼讃 (上) (岩波文庫 赤 524-1)



まずは有名な名言で、私が好きなものを。

禽獣は喰らい、人間は食べる。

教養ある人にして初めて食べ方を知る。

どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう。

創造主は人間に生きるがために食べることを強いる代わりに、それを勧めるのに食欲、それに報いるのに快楽を与える。

新しいごちそうの発見は人類の幸福にとって天体の発見以上の物である。


食をたのしむことは単純な娯楽や生理的欲求を満たすことではなく、知性のをもった人間としての義務であるとさえ、私には読み取れるのです。


サバランは様々な極上の料理も紹介しており 文字通り垂涎ものですが、それよりも私はこんな、サバランの「食」を崇めてしまうクレイジーさがとても気に入りました。

加えて食に関するエピソードも散りばめられており、当時のヨーロッパ社会の一端が見られるのも興味深いです。


美味礼讃 下 (岩波文庫 赤 524-2)

美味礼讃 下 (岩波文庫 赤 524-2)


さて、サバランは「何を食べるか」だけでなく、「どのように食べるか」も大切にしています。
要するに、食卓の在り方についてもこだわります。
どんな人と、どんな部屋で、どんな温度で、どんな食器で、どんな順番で、料理に手をつけるのか、、、

私はふと日本の茶道に通じる精神をほんの少しだけここで思い出したのですが、
食卓の在り方としては、家庭であれ公の場であれ、人と人の交流の場としてどう設えるかということを考えさせられました。

現在の私たちも、私生活から仕事はもちろんのこと、冠婚葬祭に至るまで どこでも食事をイベントの中で重要なこととして位置付けています。
生理欲求に絡む行為のうち、フォーマルにまで昇華されたのは「食」くらいではないかと思うと、本当に特異なことに思えてきます。


食糧資源の大切さを訴える本は本当に沢山あります。
しかしここまで「食」をとりまくあらゆることを真剣に考察し、根底には「真実の美味しいものを食べるために全力をかけよう」という立場の本はなかなかないのではないかと思います。

どんな状況でも食べなければ生きられないという現実がある一方で、食を楽しもうという飽くなき追求は、人間に与えられた特権だと思いました。



美味礼讃

美味礼讃

私が読んだのは旧訳ですが、新訳も出たようですね。
旧訳の読みづらさは、まぁ近代文学程度なので何とかなりますが、難解な旧漢字表記は解読するのが大変でした。

booksformams.hatenablog.com
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