『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』(上映中)
実は読書だけでなく映画も好きで、ジャンルに偏りはありますが、1ヶ月に1~5本ほど観ます。
DVDで旧作も観ますが、映画館まで自転車で5分のところに住んでいるので、爆睡している子供たち(19:30には寝てしまう)を夫に任せ、私一人でレイトショーに向かうこともあります。
さて一昨夜、今話題の『ラストレシピ』を観てきましたので、せっかくなので映画の感想も書いてみることにしました。
(ネタバレなしで書いたつもりです)
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【あらすじ】
絶対味覚をもつと言われる現代の天才料理人・佐々木充は、腕は確かながらも愛や情熱に冷め、依頼された料理をただ金のために作り歩く日々を送っていました。
そんなとき、中国の料理人から「大日本帝国食菜全席」という幻のレシピを再現してほしいという依頼が舞い込みます。
この幻のレシピとは、世界の歴史に名をのこす日本料理として、1930年代に満州で作られたフルコース料理でした。
胡散臭く疑いながらも高額な報酬にも心が揺れただ佐々木は、謎に包まれた「大日本帝国食菜全席」について調査を始めます。
そして調べるなかで、戦前の満州でこのレシピを産んだ人物・山形直太朗という存在を知ることになります。
山形直太朗は天皇の料理番をしていた日本屈指の料理人で、佐々木と同じ絶対味覚をもっていました。
70年の時を経て突如現れた「大日本帝国食菜全席」には、1930年代の山形直太朗と 現代の佐々木充の二人の天才料理人だけでなく、国の絡んだ複雑な事情やそこに生きた人々の様々な思いが秘められていました。
その謎が次第に明かされていきます、、、。
【感想】
宣伝文句の通り、70年という時代を超えたミステリーとも言えますが、現代の佐々木充が、1930年満州の山形直太朗を回想する形で物語は進みます。
「大日本帝国食菜全席」に隠された本当の目的など私には読めなかった展開が多く、謎が解けていく過程はスリリングでした。
日本、満州、旧ソ連といった、当時の国際情勢や国交関係なども絡んでいることが、物語をいっそう深めています。
もちろん謎解きだけでなく、料理を通した人間の生きざまが一番の見所です。
このレシピを巡り何人もの命が犠牲になり多くの人が苦しい涙を流しましたが、それと共に山形直太朗は、料理人としての信念や腕を確立していったのです。
そんな山形の生きざまに触れ、佐々木も大きく揺さぶられます。
出演役者陣の慟哭の演技がとにかく緊迫していて、料理にかける思いや才能へのプライド、愛する人への苦しい想い、仕事人としての夢などが痛いほど伝わってきました。
特に私は山形直太朗と、満州人のヨウという助手の関係に胸を打たれました。
題材は料理を扱っていますが、民族を融合したり世界の人々を笑顔にしたりするという思いは、例え青臭い理想だとしても、どんな職業でも見いだせる価値だと思います。
そんな普遍的なメッセージも感じました。
それにしても、映像作品として一流の料理を美味しく見せようという演出が巧妙すぎます。
フワッとかつおを湯に落としたダシ汁の撮り方、食材に触れた時の効果音などなど、、、。
香りや味や空気感が伝わってくるのはもちろんのこと、料理は単なる食欲を満たす手段ではなく、人類の産んだ最高の芸術だと思わされました。
エンドロールも見応えがあります。