とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

橘玲『言ってはいけない残酷すぎる真実』

世の中には、大衆の思想として正しいとされるイデオロギーや、反対に倫理的な観点から口には出せないタブーなど、ある程度統制された考え方があります。

その内容の真偽はさておき、
「皆がこう言うけれど、本当にそうなの?」
「皆は口に出さないけれど、本当はこうじゃないの?」
…そんなマイノリティの発言をあえて発言してくれる人は貴重だし、ひとまず耳を傾けてみるのは必要だと私は考えます。

本書はそんな社会通念に反する、ある意味 現代人が不愉快になるような"タブー"を、進化や遺伝学の立場から明らかにした新書です。

全てを鵜呑みにはしませんが、重たいけれど納得できる話も多く、私はかなり興味深く読みました。
道徳的な判断を重んじるような方に、本書はぜひ読んでみてほしいです。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

人の能力は学歴では分からないとか、人は見た目よりも中身が大切とか、世の中にはカネより大事なものがあるとか、才能より努力のほうが重要とか、戦争はいけないとか、、、様々なタテマエはあるけれど、実のところそんなキレイゴトでは済まされないのが現実です。
善とか悪とか言う前に、ホモサピエンスが進化するなかで、遺伝子に組み込まれた残酷な事実があるのだよ
…ということが明らかにされていきます。

3つの章の内容を主観で解釈して超コンパクトにまとめると、

【1章 努力は遺伝に勝てないのか】
頭の良さ悪さは遺伝によるもので、本人の努力でどうにかなるものではなく、それは経済格差や犯罪とも関係が深い。
精神疾患や気質など"こころ"の遺伝率もかなり高く、それは親子で体格が似ることの遺伝率以上である。
言ってしまえばサイコパスになる人間も、遺伝的に生まれたときから決まっている。

【2章 あまりに残酷な美貌格差】
世の中は結局、美しい人が得をし、醜い人が損をするようにできている。
特に女性はメスの特質上からも仕方ない。
ヒトの生殖方法も重要な要因だが、実はヒトは乱婚(乱交)社会から発展したことが遺伝特性から分かる。

【3章 子育てや教育は子どもの成長に関係ない】
数多くの一卵性双生児の生育実例から、人格形成は環境よりも遺伝による影響が大きいと言える。
環境の影響があるとすれば、"生育環境に何があったか"よりも"生育環境に何がなかったか"ということと、"どんな仲間(友達)の中で過ごしたか"のほうが重要。


この概要だけでも、けっこうきわどいテーマを扱っていると思うのですが、もっと具体的に挙げると、私が読んでいて印象に残ったのは、例えばこんな話でした。

・黒人は知能が低い人種である。
・低心拍数だと犯罪者になりやすい。
・底辺の親から生まれた子供は大人になっても底辺である。
・賢い顔つきと愚かな顔つきがある。
・社会の格差はなくならない。
・ヒトの性器の形状と絶頂のメカニズムは、かつてヒトは乱交社会だったことを表している。
・親になるには本来免許制が必要。
・子育てには意味がない。(!)

…などなど、他にもダークな話が沢山あります。

字面だけを見るとけっこう無茶苦茶に思えることもあるし、実験と理論に無理がある例もありましたが、詳細を読むと概してなるほどと思うことが多いです。

特に、人類ヒトは知性を伸ばすことによって進化発展してきたのだから、現代でもなお知性によって格差が生まれるのは、まぁ当然のことなのだなと初めて腑に落ちました。
(お恥ずかしいながらもこれまでは、頭の良し悪しで経済格差にまで発展するなんて不平等な社会だと遺憾に思っていました。)


著者はあえてタブーを破り共有することで、社会の負の部分やリスクを未然に減らしましょうというスタンスです。
例えば危険で重篤な人格障害者は、犯罪歴がなくても逮捕可能にするなど、トンデモナイ(ように聞こえる)話も出てきます。

確かに犯罪は撲滅したいし、自分の生まれもったリスキーな気質(私なら短気でカーッとなりやすい)を治せるものなら治したいです。
けれど科学理論に則って、人間を何から何まで管理統制するのもどうなのでしょうか。
"平和な社会"のために人間の尊厳や自由を犠牲にするのは、私なら簡単には賛成できません。

人権とは何か?と、本書を通してずっと考えさせられましたが、
これはサイコパス側かそうでない側か、富裕側か貧困側か、美人側か醜女側か…どの立場で人権を考えるのかによってもかなり違ってくると思います。



しかし、それでも地球は様々なヒトを乗せて回っています。
犯罪者と聖人君子、愚者と賢者、美人と醜女、嘘つきと正直者、物乞いと富豪…
そんな多様な人間がいる中で、結局は自分の信じる誠実さで、最善を尽くしながら生きるしかないのではないかという結論に、今の私は達しました。
そのためにも日々、自分とは異なる立場や意見とも出会いながら、価値観を磨き育てていくしかないのかなとも思います。

人が生きるということはそんなに単純ではなく、ヒトの知性で考え得るよりも、もっともっと複雑で尊いことではないかとも考えています。


自分の考えに一石を投じてくれたとか、新しい視点の面白さ(interestingのほう)という意味では、今年読んだ本の100冊程度のなかではベスト5に入ります。

支離滅裂な長文になってしまいました💦