とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

貧富の格差の行き着く先は…ウェルズ『タイムマシン』

私は絵画など美術作品を観るのもわりと好きなのですが、古典的なファインアートよりもどちらかというと近現代のコンセプチュアルな作品の方が好きです。

特に興味をひかれるのが風刺画です。

社会を複眼的に見ていて訴えるメッセージが強いし、そこに描かれている意味を読み解くのが、頭を刺激されて何だか読書に似ている気がします。

中でも最近はポーランドのパヴェル・クチンスキーという風刺画家が気に入っていて、社会問題へのアイロニーを的確にしかも美的に表現しています。

クチンスキーは戦争やSNS中毒や環境問題など多岐にわたった題材を扱っていますが、特に彼の貧富の格差を題材にした作品が秀逸で、的を射ていていつもドキッとさせられます。

引用・参考https://matome.naver.jp/
(まとめて載っているサイトがここしかなかった)


沢山ある作品のうちの例ですが

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富裕層の快適な生活は、貧困層の身を削って支えられている。


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同じ水でも娯楽に使うか食べるために使うか。


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先進国のこどもの玩具になる車は、途上国では切実な労働。


、、、などなど。




日本国内でも周知の通り、貧富の差は大きな問題になっています。

(このあたりの話題は掘り下げると長くなるのでサクッと通りすぎますが)

私自身が今関わっている仕事でも青少年の貧困問題は大きなテーマのひとつになっていて、他人事ではありません。


「貧富の格差」について考えているうち、ふと、この格差の行き着く先はどうなるのだろう、という素朴な疑問に行き当たりました。



最近全く別の動機で読んだ古い名作が、貧富の格差の行き着く未来を描いていました。

ウェルズの『タイムマシン』です。

一応SFアドベンチャーなのですが、それよりも人類を風刺した作品という印象を受けました。


タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

光文社からの新訳がいまのところ一番いいです


タイムマシンを発明したタイムトラベラーが、80万年も未来の地球へ出掛けます。
そこには進化した人類が穏やかに暮らしていました。
未来人は美しい容姿で綺麗な衣服を身にまとい、労働もなく、一見したところ悠々自適に過ごしているようです。
しかしタイムトラベラーは、そんな未来人の平和を脅かす存在を知ることになります。
実はその存在とは、別の進化を遂げたもうひとつの姿の人類だったのです。


物語はタイムトラベラーが語った記録のような描かれ方なのですが、とても臨場感があり、大人が読んでも少年のようにハラハラするあらすじです。

言ってしまうと富裕層と貧困層がそれぞれ別々に進化した姿を描いているのですが…
どのように進化したか、その経過がやけにリアルなんです。

なるほど現実世界でも富裕層vs貧困層という二極化がそのまま進んでいけば、生きる環境や食べ物も違うし、ウェルズが描いたような人類に枝分かれしてしまうかも…なんて思ってしまいました。


ハラハラドキドキと物語で楽しませながらも、扱う題材を通して現代社会の問題について考えさせるところが、ミヒャエル・エンデの『モモ』を思い起こさせました。

ただ、ウェルズは富裕層の進化形を好ましいもの、貧困層の進化形を忌々しいものとして描いていたので、そのへんをどう解釈すべきか複雑な気持ちになりました。


タイムマシン 痛快世界の冒険文学 (2)

タイムマシン 痛快世界の冒険文学 (2)

今回私が読んだのはこちらです(ハードカバー単行本だけれどおそらく児童書?)