とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

2018年6月の読書8冊と簡単な感想~森博嗣Wシリーズ~

読めば必ずハマると言われる、森博嗣先生のWシリーズ。
現在出ている10冊のうち、6月に8冊を読みました。



おもしろすぎる‼
なんども徹夜しかけた‼
現代社会に生きる全ての人に、読んで、生命の在り方やAIの行き先を考えてほしい‼


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この物語の素晴らしいところは、今から約200年ほど未来の世界が舞台なのに、扱われているネタが全て、本当に起こりうる社会現象として現実味を帯びていることです。

キーワードとしては、細胞移植や脳内情報のインストールに始まり、人造人間、AI(人工知能)、クローン技術などなど、、、要するに生命に関する科学やテクノロジーの話が出てきます。
今まさに話題となっている技術で理論もきちんとしているため、「この先こうなるんだろうな」という臨場感がありました。

それに絡めてサスペンス、アクション、人情ドラマ、謎解きなんかがあるので、極上のエンターテイメントです。

そしてストーリーを楽しみながらも、

人類とは何か?
生命とは何か?
生きるとはどういうことか?

ということを、深く考えさせられる仕掛けや名言が随所に散りばめられているのです。


①彼女は一人で歩くのか?


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物語の舞台は西暦2200年代の社会です。

人間の細胞から新たな生命体を作り出すテクノロジーが定着した社会では、「ウォーカロン」という人造人間が人類と共存し活躍するようになりました。

ウォーカロンは人間とは全く区別ができない外見で、人間との違いは脳に情報(思考力や感情や性格など)をインストールしていることだけです。
意図的に倫理に反しない内容をインストールしているで、ウォーカロンは概して平和的で真面目で優秀です。

一方の人間も、身体にメモリチップを埋め込んだり、怪我や病気になっても健康な細胞に入れ換えたりできるようになりました。
肉体的なボディを作り替えることができるようになり、老化しても死なない生命体となったのです。

しかし新たな問題として、人類は生殖によって子供が生まれなくなるという新たな問題にもぶち当たりました。
世界政府や科学者達はそのことに危機感を抱き対策を考えながらも、生命の在り方や概念まで従来とは変わりつつあるのでした。

さて主人公ハギリは日本の工学博士です。
ハギリ博士は国の公的機関でウォーカロンと人間の違いを識別する方法の研究をしていて、職務として国内外へ出向いていきます。
その中で様々なトラブルや疑問にぶち当たりながら、あるときは少し変わった冒険もしながら、「人間とは?」「生命とは?」「生きるとは?」「これからの人類の行き先は?」という問題に対峙していきます。


②魔法の色を知っているか?


(前置きが長くなったので『彼女は一人で歩くのか?』と『魔法の色を知っているか?』の感想は省きます)

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③風は青海を渡るのか?

チベットのナクチュには、現在では珍しく貴重となった「出産」ができる人間の種族が保護されていることが分かり、ハギリは出向いていきます。
しかしナクチュは、今まさにウォーカロンの侵略を受けんとするところでした。

更にそんなナクチュの遺跡に、ドキッとするような過去の人類のあるものが保存されていることが分かったのです。
謎多きナクチュで過ごすうち、ハギリの頭にはは、長らく人類が抱えていた生殖に関するひとつの答えがひらめきます。

生命がどのように生まれるのか、その当たり前のようで当たり前でない神秘的なプロセスを考えさせられました。
秘密の航路で辿り着くナクチュという場所や、謎を抱えるキーパーソンにもドキドキしました。



④デボラ、眠っているのか?

また別の国で見つかった、巨大な人間の頭部を模したコンピュータ。
またまたハギリは謎の解明に関わっていきます。

この巻では、AI(人工知能)の進化を題材にしています。
AIは人間といかに共存していくのか?
AIは人間を越えるのか?
AIと人間の類似点と相違点とは?

個人的にもAIについては考えることが多々ありましたが、こうして森先生の小説のなかで語られると、AIと人類の在り方のポイントが分かりやすく具体的な形で理解できました。

また本書ではサイバー空間でのAI同士の攻防が繰り広げられていくのですが、そこから「なぜ戦うのか」という人間の本質的な疑問のひとつの答えを提示されています。

工学博士が「戦争」を語るとこうなるのか…と、新たな視点にしびれました。


(それから博士が"研究"という仕事について独白していたのもめちゃくちゃよかった。私ごときがおこがましくも全てに共感。)



⑤私たちは生きているのか?

「行ったら最後、誰も戻ってこれない」といわれる、アフリカ南部の"富の谷"という場所。
ここには、かつて脱走したウォーカロンがいるという噂を聞いたハギリは真相を知るべく出向いていきます。
そこには新しい生存の在り方が隠されていました。

肝心なところをネタバレしないように書くと、肉体を捨てて、バーチャルな世界で生きる人々に出会ったのです。

タイトルの通り、生きているとはどういうことなのか?
肉体のボディの存在意義は何なのか?と考えさせられます。

またハギリ一行はこの富の谷で、噂通り「一度行ったら戻ってこれなく」なる?…という、とても恐ろしい出来事に巻き込まれます。
知性を武器にした作戦が展開されます。

主題や描写、最後まで黒幕の正体に気付けなかった巧妙なトリックなどすべて含めて、私にとってはこの作品がシリーズ内でベスト2です。




⑥青白く輝く月を見たか?

北極の海底深くに沈み忘れ去られていた艦艇オーロラに、スーパーコンピュータが搭載されているという情報を入手したハギリ博士。
今度は北極海へと向かいました。

このスーパーコンピュータは思考を出力せず、いわば引きこもりの状態で、これ以上病むと暴走する恐れがあると指摘されます。
オーロラには核弾道が搭載されており、人類の脅威となる可能性があるのです。

そんな艦艇オーロラを調査していくなか、なんと約30年前に消息を絶った有人海底探査艦がすぐに近くで発見されたのでした。
そこに乗っていたはずの調査員と、オーロラに搭載されたスーパーコンピュータの関係に、謎は深まるばかり、、、。

自ら学び賢くなっていくAIと、人間の細胞や進化を比較し、この作品では「生きているとはどういうことか?」から更に、
「成長とは?」
老いるとは?」
「生命における不完全とは何か?」
「生命はどこを目指しているのか?」
という疑問をハギリが突き詰めていきます。
ダーウィンの進化論を思い出させるくだりもありました。

青白く凍てつく氷と海の世界が幻想的で、謎解きにまたもドキドキさせられる物語です。
ハギリ博士とAIたちのやりとりに人間らしい温かさがあり、感情があることの尊さを感じてなんだか涙が出そうになりました。

私にとってはこの作品がシリーズ内ベスト1です♥



⑦ペガサスの解は虚栄か?

今度はクローン技術の話が出てきます。
子供が生まれないはずの資産家に、子供が生まれるという不思議なことが起こりました。

実はその生殖には、秘められた悲しいカラクリがあったのでした。
それをハギリが暴いていきます。

親が子供を思う気持ちや肉親関係の捉え方を、今回はとても考えさせられました。

本書では後半にセンセーショナルな恐ろしい事件が起こるのですが、それさえも「生身の人間ならではの癇癪」として描かれています。
忌むべき出来事も違法行為も、AIやウォーカロンやロボットとの相対関係の中では、人間らしい過ちだと寛大に受け取ってしまう自分がいて、それがとても不思議でした。


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作品のおもしろさのディテールを、なかなか伝えきれずに残念でなりません。
また、時間をかけて読んでいるので、所々記憶があやふやで間違えているところがあるかもしれません💦

一般的なレビューも全て満点近いです。
とにかく世の中のことを考えながら真剣に生きている全ての現代人に、このシリーズは読んでみることをオススメしたいです。


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未読ですが、このあと当シリーズは下の二冊に続いていきます。

⑨『血か、死か、無か?』

⑩『天空の矢はどこへ?』
最新刊


しかし、⑨を読む前にこの↓2冊を読んだほうがより楽しめるそうなので、こちらを読んでからにしようと思います。

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

森博嗣先生の本は、だいぶ以前に出た別のシリーズの作品が、思わぬ伏線になっていたりつながっていたりするようで、その深淵さにファンは興奮しまくりの様子。
私もそんな森作品の真髄をたのしんでみたいと思います。


ちなみに予約していたこちらの本も届いたばかりなので、並行して読んでいます♥