とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

森博嗣『孤独の価値』を読んで~自分の「孤独」を振り返る

私が中学生だったとき、同じ学年の別のクラスに、G.T.という女子生徒がいました。
はじめ私は直接の関わりがなかったのですが、色白で華奢で綺麗な子だったので、なんとなく目立つ存在でした。
更に彼女は、やたらグループで群れる女子とは対照的に、いつもどんな時も独りでいたのです。

教室移動やトイレの時も、体育や行事など集団活動の時もいつも独りで、笑ったところさえ見たことがありません。

噂に聞くところによると彼女は、小学生時代からイジメられていて、ハブ(仲間外れ)が定着しているようでした。
ですが本人は飄々としています。

あるとき選択授業のグループ分けというちょっとしたキッカケで、私はG.T.と話すようになりました。
陰がある暗い子という勝手なイメージでしたが、彼女は拍子抜けするほど「普通」でした。
相手の目をきちんと見て、面識の有無や男女の分け隔てなく淡々と会話ができる子でした。
かといって人に媚びるところもないのです。

後から実際のところを知りましたが、彼女は「必要以上にベタベタしたり、気に入らなければハブにしたり、そんな友達関係なら必要ない。学校は勉強しにきてるんだから、邪魔されたり危害を加えたりされなければ別に構わないし、こちらからは関わらない。」と割りきっていたのだそう。

私はG.T.のサッパリした考え方がとてもカッコいいと思いました。



現在、夏休み真っ最中です。

世間の多くの人は連日のように友達やファミリーと遊んだり、親戚で集まったり賑やかな場所に出掛けたり、楽しいバケーションを謳歌しているようですね。
会話の中で聞いたりSNSを通してだったり、ニュースなんかからも雰囲気で伝わってきます。

もちろん私も、友人知人に誘われて賑やかに過ごしたり家に遊びにきてもらったりすることは、全くないわけではありません。
友人ファミリーとBBQやキャンプを楽しむこともあれば、遠方(飛行機や新幹線の距離)から泊まりにきてくれる友達も全国にいます。
旅行にもよく行くほうかと思います。

でも、基本的には誰にも会わずに独りで、もしくは家族でひっそり静かに過ごすのが、性に合っているんですよね。
最近ではママ友なんかは適度に距離を置いていて、深入りしないようにしています。


更に今年は家でやる仕事が比較的多くて、気づけば独りで黙々と没頭していることに気付きました。
お盆で世間は楽しそうだけど、これってなんだか孤立しているみたい?これって寂しいことなのかな?と、ふと考えてしまいました。

そしてG.T.と自分の青春期のことをボンヤリと思い出していました。
私も結局、必要以上にベタベタしたりワイワイする時間や関係は、そこまで求めずに過ごしてきたのです。



森博嗣さんの『孤独の価値』を読みました。

孤独の価値 (幻冬舎新書)

孤独の価値 (幻冬舎新書)

森先生は現在、都会の喧騒を離れ、ほとんど人と会わずにヒッソリと暮らしているそうです。
買い物もネットだし、何年も公共交通機関を利用していないし、たった独りで趣味と仕事と研究に没頭していて「孤独」ですが、それがとてもたのしく幸せな暮らしなのだそう。

彼は本書で、次のようなことを主張しています。

・メディアやネットの影響などから、世間は「賑やかで楽しいのは良いこと」「孤独で寂しいのは良くないこと」のような風潮があるが、本当にそうだろうか?

・確かに人間が寂しさを厭うのは本能的なものかもしれないが、現代では一人になっても生きていくことはできる。

・そもそも「孤独」は人間だけにある崇高な概念。孤独や寂しさの中で人は思考したり何かに耽ったりできるし、芸術が生まれたりする。「わびさび」という美意識も「寂しさ」からきている。

・たった独りで何かに没頭するとき、孤独の寂しさよりも、本物の楽しさや感動を味わうことができる。現代人はもっと「孤独」の価値に目を向けるべきだ。


他にも「賑やかな楽しさ」と「孤独の寂しさ」をサインカーブとコサインカーブの振れ方で説明されていて、双方の関係を相対的にとらえているのが独特です。

この本は、私は概ね賛同できることが多い内容でしたが、どちらかというと「友達も知り合いもいるけれど、あえて一人でいることを好む」「まわりのしがらみから離れて一人になりたい」というような人向けかなと思いました。
「友達も肉親もいない」「自分で稼げなくて引きこもり」という、本当に社会から取り残された孤独な人には何の救いにもならないと思います。



結局「孤独」に価値が生まれるのは、「いざとなれば頼る人や親しい友人はいるけれど、自分の信念や生き方のために、好きで一人でいる人」の場合なのかなと思いました。

だからG.T.も、毅然としていてかっこよく見えたのかなと改めて振り返ります。
だから私も一人でいても焦ったことはないのかなと気付きました。



ところで私は、世間で忌み嫌われている「孤独死」って、むしろ理想的な最期ではないかと思っています。
そしたら森先生も「孤独死尊厳死」との言及をされていて、非常に嬉しく頼もしく思いました。