とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史・上』

人類はその知性を用いて、地球環境を搾取したりコントロールしたり、あるいは他の生物の頂点に達したかのように考えられたりすることがあります。
実際に、人間の都合で自然環境を好きに利用していますし、多くの宗教では人間を他の動物とは区別して特別視しています。

しかしその一方で、私は「人類は特別な存在ではなく、知的に進化しただけの単なる脊椎動物のひとつに過ぎないのでは?」という疑念も昔から抱いてきました。



サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福


ベストセラーの『サピエンス全史・上』を読みましたが、本書は私のそんな疑念を肯定に変えてくれました。

本書では、われわれ人類(=ホモ・サピエンス)がどのような進化を遂げて今日に至り、これからどのような発展を遂げていくのだろうかということを、主に文化史の角度から考察していきます。

われわれサピエンスの特長としては一般的に

「言語をもつ」「道具をつくって使う」
≒「知能の高さ」

などと言われるようですが、本書ではむしろ「虚構を信じるようになった」ことが知性であり、ホモ・サピエンスたらしめる進化上の特性だと断言しています。

イルカやハチなど何らかのコミュニケーション手段(=言語)や社会性をもつ動物はいるし、いわんや霊長類なんかは道具を使い、知能の高い動物はいくらでもいます。
しかし、ホモサピエンスは「虚構」つまり「観念」や「妄想」をもつことができたから、「未来」「権力者」「神」「国」などという目に見えない概念を共有することが出来るようになり、独自の進化を遂げたというのが筆者の主張です。
まさにその通りと納得しました。


移住を伴う狩猟採集社会から定住型の農耕社会への変換、物々交換から貨幣経済の誕生、サピエンスの大陸間移動に伴う生物の大量絶滅、、、
などなど改めてサピエンス社会の進化と発展を辿りましたが、こうして地球史とともにサピエンスを眺めると、我々も単なる動物の進化過程のひとつに過ぎないという思いが強くなりました。

進化上でたまたま得た特性を本能のままに扱ってきたら、たまたま「人類社会」というサピエンスの集団ができたのだと。
私たちが「理性」という概念をもてること自体、「本能」の一部ではないのかと。
そんなふうに感じたのです。

だから環境破壊や戦争など人道的に悪いと言われていることも、「人類が誕生してから今日までの、どこからが"悪"と言えるのか?どの時点に遡って止めさせればよかったのか?」と考えると、答えは出ません。
サルが食べかすなどのゴミを散らかしても、群の中で争っても、「環境破壊はダメ!」「戦争反対!」なんて思いませんよね。
「そういうことをする動物なんだ」と考えるしかありません。

そう考えると我々サピエンスによる環境破壊も戦争も、結局は、動物が本能で屍肉を食い散らかすことと根本的には変わらなかったり、繋がったりしている面があるんですよね。

もちろん、だからといって簡単に環境破壊や戦争などを肯定できないのも、私がサピエンスとしての本能をもっているからであります。


本書の大筋の中に、サピエンスとネアンデルタール人が出会った後どのように後者が滅びていったのかという説と、交配できなかったと言われていたネアンデルタール人のDNAがサピエンスから見つかったという記述がありました。

サピエンスが知性を発達させて生き残ることができ、自然界で支配力や繁殖力などを強めたとすれば、この別種の人類との交配や攻防がひとつ大きな要因になっているのではないかと私は興味をもっています。

ネアンデルタール人との交配については前から少し知っていたのですが、今回詳しい諸説を読み、更にもっと知りたいと思った部分です。


「人類は知的に進化した脊椎動物のひとつに過ぎない」とはいえ、現在70億にも増えた人口を考えれば、種の繁栄という意味では間違いなく弱者ではなく強者の部類には入るはずです。

本書は様々な立場や観点からたのしむことのできるノンフィクションだと思います。
しかしこのように、"サピエンス"を我々当事者が客観的な視点で捉えさせることが、本書の一番の価値なのでしょう。

発売当初から図書館で予約していたのですが、ベストセラーすぎて私の前に既に3桁の予約が入っており、2年以上経ってからようやく手元に届きました。(購入したいというほどではなかった)

人気が出すぎたベストセラー本って、実際に読んでみるとたいして面白くないことが多いのですが、こちらは予想に反して興味のもてる内容でした。

下巻もいつ届くか分かりませんが、楽しみです。