武田砂鉄『コンプレックス文化論』(新刊)
何かしらコンプレックスを抱えている現代人は多いかと思いますが、実はそんなマイナス要素の「コンプレックス」が文化を作りだしているのではないか?という評論です。
評論といっても幻冬舎らしくフランクで、コンプレックスについてインタビューや文献研究などを行いながら考察していきます。
著者の独特の切り口や着眼点、インタビューでのきわどい突っ込みなどが好きで、わりと面白く読めました。
- 作者: 武田砂鉄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/07/14
- メディア: 単行本
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本書で取り上げられているコンプレックスは、天然パーマ、下戸、解雇、一重、親が金持ち、セーラー服、遅刻、実家暮らし、背が低い、ハゲ、
の10点です。
え、これがコンプレックスになるの?なんてものもあります。
遅刻なんてコンプレックスとかじゃなくて、自分次第で直せるじゃん!とか、親が金持ちなんてむしろ羨ましいよ、など。
ともかくもコンプレックスはコンプレックスだが、それを乗り越え(開き直って)プラスにしようとする人がいて、彼らが新たな文化を作り出している!という発想の転換を試みています。
例えば現代美術家の施井泰平さんは、[実家暮らし]だったからこそガレージをアトリエにしたり家族の協力を得たりして、大きな作品をつくることができたという話は個人的にとても興味をひかれるものでした。
同じ[実家暮らし]について、NHKドラマ『あまちゃん』の環境を考察したりもしています。
意外とまわりには、コンプレックスを抱えた人たちがつくった文化が多くあることに気付きました。
ところでコンプレックスはつまるところ、肩身の狭いマイノリティです。
コンプレックスを抱え悩んでいるマイノリティな人は、例えば一重なら二重にプチ整形しようとか、マジョリティに転じようと試みる場合があります。
私はこれを読み、とても恐ろしいことだと思いました。
コンプレックス撲滅を突き詰めていくと、優性学に行き着くからです。
もちろん優性学には賛否両論ありますが、優性学から大量虐殺に進んでしまったヒトラーが、実はコンプレックスの塊だったことを思えば、考えさせられる話ではないでしょうか。
あらゆるコンプレックスを肯定的に捉えて語ろうとする著者の論に触れ、私のなかで結局は多様性が大切だなという結論に達しました。
自分のコンプレックスをどう受け入れ、利用していけるかは大きな課題のままですが、、、。