とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

池井戸潤『下町ロケット』

夢と勇気と感動をもらえる企業小説、ドラマにもなった人気の物語です。
感想を一言でいうと、かなり胸と目頭が熱くなる面白さで、企業戦士やエンジニア、人生の目標に迷う多くの大人にオススメの一冊です。


東京下町にある中企業「佃製作所」の佃(つくだ)社長は、元ロケット工学の研究者です。
主人公佃は宇宙への夢を心のどこかに抱え続けながらも、亡き父の会社を社長として継ぎ、順調に売り上げを伸ばしてきました。
佃製作所は小さいながらも高い技術をもつ会社ですが、しかしあるとき、大口契約の打ち切り、他の企業との特許訴訟、資金繰り難、また別の大企業からの買収の危機、社長佃と社員の意見の食い違い、、、と次から次へと問題や試練が襲ってくるのです。

果たして佃製作所は生き延びられるのかーーー。

下町ロケット

下町ロケット

目の離せないエピソードがいくつもある中で、一貫して伝わってくるのは、佃の高い技術とものづくりへのプライド、そして佃自身のロケット工学へ寄せる「夢」でした。

現実的に食べていくための仕事をしながらも、佃は自身や企業としての夢を忘れていません。
カネが入ってくることも会社としては大切だけれど、どんな夢や信念をもって仕事をしていくのかということも、大切だと佃は考えます。

会社がピンチに直面したとき、何度も苦しく大きく揺れながら、社員と衝突しながらも、夢を捨てずに企業の進方向を毅然と示した佃社長は最高に格好いいと思いました。
まわりの社員ひとり一人のキャラも立っていて、それぞれ考えが異なりながらも、心の底では自分の会社や仕事を愛する姿もうらやましいほどです。

「夢」というとどこか青臭いような気もしますが、人の生きる方向性のために、欠かせないものなのだなぁと胸を打たれます。



他の多くの読者がそうであろうと思いますが、私も同じように、自分は今、何か夢を持っているのかと自問しました。

この世には、様々なカタチの仕事があります。
私の場合は公務員だったので(夫の全国転勤で退職)、この小説のように頑張っても売り上げという金額に直接は跳ね返ってはきませんでしたが、しかし金には代えられない夢や希望や誠意を私もかつては持っていたことを思い出しました。
もう一度あの頃の熱い思いを取り戻せるのだろうか…と問うと、切なくなります。

子育てであっても今抱えている仕事であっても、換金できない、価値ある偉業に取り組んでいるという思いで夢をもって向き合えたらと強く願います。

結局 仕事の貴賤というのは、大企業か中小企業かとか、肩書きが何かとか、いくら儲けるかとかではなく、どのような人間がどんな思いで何を成し遂げたか・なのだなと教えられました。



このストーリーは言ってしまえば勧善懲悪で、善人キャラと悪役キャラが白黒はっきりしています。
ですがそれは白けさせる要素というよりもむしろ、企業の戦略にドキドキし、展開にハラハラし、垣間見える人情にホロリとし、トドメの一発でスカッする…という爽快さがありました。
珍しくわざとらしさのない、かなり後味の良い小説です。

ついでにいうと、分野は違えどものづくりに関わってきた立場と宇宙への憧れを胸に秘めている私は、ラストは何度読んでも涙がこらえられません。


この作品がヒットした裏には、多くの人の「夢を持ちたい・追いたい・叶えたい」気持ちがあるのではないか、だから受け入れられたのではないか、と感じます。