とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

森下典子『前世への冒険』

『前世への冒険』は、500年前に生きたあるイタリア人青年の謎解きをしていくルポタージュですが、これはもう立派なノンフィクションのミステリーです。

前世への冒険 ルネサンスの天才彫刻家を追って (知恵の森文庫)

前世への冒険 ルネサンスの天才彫刻家を追って (知恵の森文庫)

前世が見えるという女性から、著者森下氏は「あなたはルネッサンス期に活躍したデジデリオという美青年彫刻家でした」と言われたことがこの物語の始まりです。
霊能などを信じない著者は、女性の言う前世の話を大きく疑いますが、遂にイタリアとポルトガルへ「デジデリオ」を調査する旅に出るのです。

眉唾の思いでいた著者ですが、しかし、旅の前から旅の最中、そして旅の後にかけて、「そんなことが起こるの?!」というような、不思議な偶然が幾度も起こります。
人目に触れることのない資料や遺された美術作品などから、女性に言わたとおり前世と辻褄の合う事実が相次いで発覚していくのです。

終始一貫して著者は、前世やデジデリオを疑ってかかっているというスタンスが、白けさせずとても良いです。

前世があるのか否かは分からない、けれども不思議な事実はここに実在ししている、、、果たして著者の前世「デジデリオ」は何を教えてくれるのか。

何度も鳥肌がたち、恐れおののき、そのスリルにハラハラドキドキしながら一気読みしました。




著者がデジデリオを通して巡り合うミステリーがとんでもなくエキサイティングなのはもちろんのこと、イタリアの文化や歴史の一部分がかなり深く掘り下げられていくのもたまりません。

500年も昔の しかも異国の歴史や文化というと、遠すぎてどこか おとぎ話のように感じてしましますが、世界のどの場所・どの時間にも、埋もれた大勢の生身の人間が確かに在ったということを強く実感させられました。
著者がイタリア旅行で出会った故人は、そのくらい生き生きと描かれていたのです。

もう前世があるか否か、著者の前世が本当にデジデリオだったのかどうかなど、だんだんどちらでもよくなっていきます。

そんなジャッジが大切なのではなく、デジデリオをめぐって様々な出会いがあり、そこに関わる人が様々なことを感じて考えた、、、
ただそれだけで十分だと思えました。

前世の真偽を知って何になるのか?という問いが私の心のどこかにもありますが、「前世と対峙すること」を通して、いまのこの人生をどう生きるのか?ということが大切なのだと教えられました。


しかし敢えて言うなら…
著者とデジデリオ青年に、何かしらの縁があることは確実だと私は思います。