とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

穂村 弘『ぼくの宝物絵本』(準新刊)

絵本は子供だけのものではなく、もちろん大人もたのしめるものです。
いや、というよりむしろ、子供とはまた異なる大人ならではの味わい方があると思います。
そんな大人が絵本をたのしむための視点や考え方を、穂村弘『ぼくの宝物絵本』は教えてくれます。

酒井駒子さんの表紙絵が目を引きますが、中も美しいカラー刷りで、それぞれの絵本の見所も紹介されています。
最近話題の絵本だけでなく昭和のノスタルジックな作品も紹介されており、ラインナップを見ているだけでも、穂村氏がいかに手広く絵本を読んでいるかが分かります。

ぼくの宝物絵本 (河出文庫)

ぼくの宝物絵本 (河出文庫)

大人になると、人によっては旅行や飲酒など色々なストレス発散方法が見つかりますが、著者穂村氏は絵本を読むことがそれにあたるのだそうです。
私も読書で異世界にトリップして癒しを得ることがあるので、なんだか分かる気がしました。

しかし絵本は活字本とはまた違い、視覚的な魅力という要素が入ります。
視覚的な情報が入る分、文章や構成も含め、物語全体の描かれ方に多様な広がりが生まれます。
穂村氏はそんな絵本の特長も拾い上げています。

f:id:booksformams:20171029200855j:plain


中でも特に私が共感したのは、
「もうひとつの世界」
「ウソのない別世界」
「色数問題」
という章です。

「もうひとつの世界」は、無生物が生きているように見える感覚や、擬人化という手法について書かれており、絵本だからこそできる私も大好きな表現です。

「ウソのない世界」については、穂村氏が何を言いたいのかよく分かりませんでしたが、私個人としては「本当のことを言わないけどウソはついてないよ」みたいな絶妙な言い回しは深いと思うので興味をひかれます。

「色数問題」で取り上げられている、限られた色しか使われていない「なんか変だけど美しい」感覚は、カラフルより白黒の方が味わい深いと思うことがある自分の感性に響きました。

他にも穂村氏は独自の視点と読み方で絵本をたのしんでいるのがよく伝わってきて、本書を読むと改めて絵本はひとつの芸術の分野として成り立っているなと思わされます。


親になり色々な絵本を子供に読み聞かせるうち、自分にとって好きなもの、逆にあまり惹かれないものが何となく分かってきました。
その「何となく」がなんだったのか、穂村氏の考えを聞きながら、一緒に考えるような感覚になりました。

ここで紹介されているように、絵本を見るときにちょっとした大人ならではの視点を加えるだけで、これまでと少し違った楽しみ方ができそうです。


ひとつだけいうと、穂村氏の文章自体は理路整然としておらず漫然とした印象で、私は読みにくい苦手な部類の文章でした。
大学時代に、穂村氏に引けをとらないか それ以上のマニアックな絵本を研究している准教授が身近にいて、それが深くておもしろかったので、もっとそういった「絵本研究」のような本を期待していましたがイメージと異なりました。