とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

尾原和啓『モチベーション革命』(新刊)

今の若い世代(ゆとり世代以下)は、お金を儲けることが仕事のモチベーションにはならないのだそうです。

上の世代の人たちは戦後、物資がない状態から様々なものを手に入れ、経済成長の中で金銭や快楽に満たされることが働くことの大きなモチベーションになり得ました。
しかし若い世代の人たちは、生まれたときから足りないものがない状態なので、物やカネを手に入れることよりも、もっと別の動機が必要だということです。
著者はこれを「乾けない世代」と呼びます。

そんな乾けない世代の特徴や強みを知り、これからの社会の中でどう生かすか、どのように仕事をしていくか、という啓蒙が本書の大筋でした。

乾けない世代にとっての生き甲斐とは、仕事でカネを儲けて物理的に満たされることよりも、友達や家族など愛する人との時間を楽しんだり、自分の好きなものに没頭したりすることだと著者は分析します。
要するに働くことをひとつとっても、カネを沢山稼ぐことよりも、自分にとってその仕事にどんな意味があるのかのほうが大切なのだそうです。

確かにカネやモノではなく、SNSで「いいね!」をもらえることがステータスになるような人々を私は思い浮かべ、この例ひとつとってもモノが飽和した次の段階、承認欲求や精神的満足を求める世の中の流れがあるのかもしれないと納得しました。


さて、このようにモノがある程度飽和した社会になると、次はインターネットやAI(人工知能)といった分野が発展するようになります。

本書で私が最もショックだったのはAIの話でした。
これから単純労働の多くは人間ではなくAIがやるようになる、というのは広く知られた話ですし、今もう既にそのような動きは始まっています。
しかし私がショックだったのは、さすがに人間にしかできないのではと思っていた分野でも、既にIA化が始まっていたということでした。
ここで挙げられている話は医療分野で、例えば医師の診断というナイーブな部分です。

しかもそれは、単純に人間の指揮のもとでAIが歯車のように行っているというのではなく、見方によってはむしろ人間が歯車の一部としてAIに使われながら行っている、という話でした。

コンピューターが感情をもって暴走するようなSFの世界も、もはや空想ではなくなるのかもしれないと思い背筋がヒヤリとしました。
私自身の専門分野は「人間 対 人間」の仕事であり、人間の感性や身体感覚が必要になるものでもあるので、AIには代われないと思っていましたが、認識が甘かったとも思い知りました。
(大ピンチです。)


本書では、このような社会で今後乾けない世代がどう活躍できるのか、どのように働いてくべきなのか、具体的な話が続きます。
グローバルな生き方の一端を示してもらったような気もしたし、自分の子をどう育てるべきかのヒントにできそうな話もありました。


けれど私はまだ、社会(のマジョリティ)が変わらないと働き方も変えられないという気持ちが残っています。
著者のいうような生き方・働き方は、一部の人はできても、社会全体がそうなるのは難しい理想論ではないかと思うのです。


しかしそれでも、これから訪れる未知の社会の様相と、それへの対応策を可視化したことに、この本の一つの価値があると思います。

これからの社会予想図を知り、乾けない世代自身が生き方を考えたり、上の世代が若者を理解し活躍の場を作ったりするために、新しい視点を与えてくれる一冊かもしれません。