とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

秋に読みたい 重松清『季節風 秋』

秋と聞いて思い浮かべるものは何でしょうか。
「実り」でしょうか、それとも「哀愁」でしょうか。

家族ものを書かせれば右に出るものなしの重松清さんの短編集『季節風 秋』には、その名の通り「秋」を題材にした12本のショートストーリーが綴られています。

実りながらも散りやすい秋の哀愁と、でもその先に何かがありそうな仄かな希望を胸に灯してくれる物語ばかりです。


季節風 秋 (文春文庫)

季節風 秋 (文春文庫)




オニババと三人の盗賊
オニババ婆ちゃんが一人で切り盛りする昔ながらの文具店のまわりに大きな店ができ、個人商店は客が減ってしまう危機に。
そこに3人の小学生盗賊が万引きをしに現れた。
いつも厳しく怖いオニババの人情と、子供たちの素直さが交ざり合い…。


サンマの煙
転勤で新しい町に引っ越した家族。
新しい友達を作らないととネガティブな心境の娘に、母が自身の幼少期を語り始める。
母にも同じ引っ越しの経験と、忘れられない旧友がいた…。


風速四十米
昔は台風や怖いことがあると父の強さに守られていた。
今、年老いた両親を守るのは誰なのだろう。
台風の日に田舎に帰り、すっかり弱くなってしまった父と改めて対峙する…。


ヨコズナ大ちゃん
好きな女の子に体型をからかわれ、落ち込む大ちゃん。
相撲大会5連覇がかかっているが、今年は絶対に出場しないと心に決める。
しかし男としてこれでいいのか?
恋に揺れる思春期男子の心模様やいかに…。


少しだけ欠けた月
今夜は、離婚する両親と3人で食事をする最後の夜。
高級レストランで外食をし外に出ると、自分たち家族のように月が欠けていた。
子供の力の及ばぬ運命が迫る、切なくも貴重な時間が流れていく…。


キンモクセイ
田舎の年老いた両親が、妹の家に引っ越すことになった。
実家の荷物を片付けながら、キンモクセイの香りと共に思い出がよみがえる。
妹の家族には申し訳なさと感謝の気持ちが沸いてくる…。


よーい、どん!
左遷になって悶々とする夫婦。
聞こえてくる音に釣られ、近所の運動会を覗いてみることに。
渋々ついていった夫が、不利ながらも必死に頑張る子供へ気付くと声援を送っていた…。


ウイニングボール
フリーターの僕とバイト先の常連客との草野球チームは弱いが、初めて勝ちたいと思い、本気で前進した。
ウイニングボールを渡したい人がいる。
いつもヤジを飛ばしてくる、入院中の少年だ。
「まじめ」と「必死」の違いに真剣に向き合う大人たち。


おばあちゃんのギンナン
三回忌を迎えたおばあちゃんは生前、家族のためにギンナンを拾ってくれていた。
美味しかったギンナンとおばあちゃんを思いながら、今は母娘でギンナンを拾う。
思い出の中で、おばあちゃんはちゃんと生きている…。


秘密基地に午後七時
昔馴染みの中年男5人は、金曜の夜になると秘密基地にやって来る。
しかしあるときメンバーの一人が息子を連れてきたいと言い出した。
皆は反対するが、何か理由がありそうだ…。
親友とただの友達と、そうでない男同士の関係を描く。


水飲み鳥、はばたく。
部下の失敗の謝罪で取引先に行く途中、喫茶店で水飲み鳥を見つける。
繰り返し頭を下げる水飲み鳥は、まるで自分のようだ…。
でも水飲み鳥はいつか羽ばたくのだ。


田中さんの休日
田中さんと娘の心には、いつしかどこかに隔たりができてしまった。
そんな中、休日に父と娘で出掛けることに。
言葉になりそうでならない、父と娘の温かい関係を描く。




秋の香りや虫の音が思い浮かぶ情景のなか、切なくもどこか温かみのある、そしてどこか懐かしさや人のぬくもりを感じる物語が展開されていきます。

特別な大事件が起こるわけではありませんが、一人一人 様々な思いを抱いて生きる人生に、そっと寄り添う感覚が生まれます。


重松清さんの作品の良さは、父母、娘、息子、祖父母…家族のどの立場でも、その中にある静かな愛情が言葉はなくても伝わることでしょう。

ときには人生の不甲斐なさが描かれていますが、それでもきっと明日は、明日がだめでも近い未来には、生きていればいいことが起こるかもしれない、、、そんなかすかな希望を心のどこかで感じられるのが魅力です。


季節風 冬 (文春文庫)

季節風 冬 (文春文庫)

季節風 夏 (文春文庫)

季節風 夏 (文春文庫)

季節風 春 (文春文庫)

季節風 春 (文春文庫)



今週のお題「読書の秋」