とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

森博嗣『恋恋蓮歩の演習』

森博嗣さんの本は何冊か読んだのですが、ミステリー作家であるにも関わらず、実は今回は彼のミステリー初挑戦でした(^^;

私…バイオレンスや殺人描写が大の苦手でして、ミステリーはそういうシーンが出てくる場合が多いので敬遠してしまいます。
しかし今回の『恋恋蓮歩の演習』は粗筋を見た限り、残酷なシーンが無さそうなばかりでなく「ロマンチックな罠」で進むミステリーだと書いてあったので挑戦してみました。

恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)

恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)


ある豪華客船で、数億円の絵画作品と乗客ひとりが忽然と消え去りました。
船内の保安当局や、ヘリで駆けつけた警察も加わり、徹底的な捜査をするも何一つ解決の糸が見つかりません。
てんやわんやの大騒動です。
その豪華客船には、ひょんなことから件の"被害者"や"絵画"と縁ある人間たちも乗り込んでいて、巻き込まれながらも謎解きに関わっていきます。

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実は事件の起こる船上の本題までが長いのですが、物語の鍵を握る登場人物のキャラがとにかく濃く、それぞれの抱えるバックグラウンドや人間関係構築の過程が物語を更に深くしていました。

中でも主人公ホロクサという男が、はじめのほうでは掴み所がなく不可解なのですが、物語が進むにつれてかっこよさが分かっていきハートを鷲掴みにされます。
問題解決の糸口も、それで目を眩ませられてしまいました。
要するに、私も"ロマンチックな罠"にかかってしまったわけですね。


どんなミステリー小説にもあるように、大どんでん返しや伏線回収の面白さはこの作品にもありました。
けれどこの物語の面白さは、別のところにも沢山あります。

それは読者が気付かぬうちに植え付けられてきた"先入観"に騙されることと、そして何より最後の最後のラスト2行で全ての謎が解けて衝撃を受けることでした。

私は普段ミステリーで勘が当たることもわりとあるのですが、今回はラストを読み終わる瞬間に「えぇー!!!」と言ってしまったので、完敗です(^^)
自ら罠にハマっていくのも爽快ですね。


豪華客船や何億円もの高価な絵画を扱っていて、庶民の私にとっては現実離れした題材ではありますが、だからこその大胆な仕掛けにエキサイトしました。
あえてフィクションの中で、そういったセレブの娯楽のひとときを味わえるのも、読書の醍醐味だなと感じました。

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森博嗣先生の著書は以前「講義シリーズ」を何冊か読んで、物事の考え方や多岐ジャンルへの造詣の深さに沢山の感銘を受けました。
この方の、アカデミックでありながらも自由奔放な少年のようで、さらにエンジニアでも文豪でもある多才さにとても惹かれます。

12月半ばに読んだこの『恋恋蓮歩の演習』も、シリーズもののひとつのようで、他の作品も気になっています。
これまでに読んだ森先生の小説は『喜嶋先生の静かな世界』という、大学の研究者の話だけですが、この作品の世界観もとても好きでした。