とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

藤原和博『負ける力』

藤原和博さんは、リクルート社フェローなどを経て、公立学校で初の民間校長を勤めたことで有名な方です。

私は職業柄から元々存じ上げていた先生で著書も読んだことがありましたが、昨年グロービスのウェブで彼の講演を聞く機会があり、年末の機会に改めて未読の著書に挑戦してみました。

(014)負ける力 (ポプラ新書)

(014)負ける力 (ポプラ新書)

まずは本書全体を通したキーワード、「ベクトルの和」というものが前提の概念として紹介されています。
これは、別の方向を向いていた二者の間に共通の目標をつくり、双方の目指すべき方向(ベクトル)を合わせるということだそうです。

図の★部分が共通の目標で、別の方向に開いていた矢印が一点に集約され、平行四辺形におさまっているのが分かります。
本書の要旨はつまり、他者とこの「ベクトルの和」を見つけることで新たな物事が生まれるよ!というものでした。

具体的にどのように他者とベクトルの和をつくってきたか、その具体例として著者の経験が各章で紹介されていきます。

f:id:booksformams:20180113211912j:plain
p.13挿絵より

藤原先生が個人的に動き始めて生産に至ったという腕時計とハードシェル型リュックの開発秘話は、コンセプトの立て方とアプローチの方法に興味があったのでおもしろく読めました。

邪魔な人間関係の整理の仕方も、余計な人付き合いをバッサリ切っていく様が痛快で、納得できる話も多くあります。
結婚式に呼ばれたら出席せず、代わりにあることをすると新郎新婦との仲がより深まる、という話なんかはいつかやってみたいと思います。

私も例えば自分の持ち物ひとつとっても、そのこだわりやウンチクをいくらでも語れる(実際には暑苦しく思われるので語らない)くらいに物事の背景をたのしんでいるつもりなので、"物語のある人生"を大切にするという藤原先生の考え方にとても共感できました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


さて第5章では、学校現場の実態を暴露しながら"義務教育の改革プロジェクト"という大胆な構想が繰り広げられます。
例えば「上手いビデオの授業は、下手な生の授業に勝る」という持論のもと「教員免許のない民間人が授業を行い、その録画を全国の学校に配信する」などの藤原流・革新案が繰り広げられます。

他にも教科統合などの提案もあり、いっけん大きな話に思えそうですが、私は概して賛成できる話ばかりでした。

本書でも紹介されている藤原先生のドテラ塾(※)が軌道に乗って来た頃、私もまさに同じ東京都の公立学校で教諭をやっていました。

当時も団塊世代前後の保守的な教員は「何も分かっていない民間校長がメチャクチャなことをしやがって」と文句を言っていましたが、若輩だった私は、内容の可否はひとまず置いておいて、学校現場に新しい試みが広がることに期待していたことをよく覚えています。
外から来た人間が学校を客観的に見ることで、新たな問題や可能性が見つかるのは想像に難くありません。

学校教育など本来は普遍なものでなく、地域や時代や子供の実態に合わせて変化すべきだと思うのです。

この教育改革も、藤原先生によると「ベクトルの和」から生まれた動きなのだそうです。
「ベクトルの和」は、ビジネスから私生活まで様々な場面で応用のきく考え方のようです。

なぜこれが「負ける力」なのかは、あとがき解説を読んでもよく分かりませんでしたが…



※ドテラ=土曜日寺子屋。藤原先生が始めた取り組み。土曜日の休業の学校で、希望生徒が参加する自主学習の場。講師派遣に民間の塾が関わっていたと思います。