とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

もしかしたら人間関係の極意かもしれない~藤原和博『自分「プレゼン」術』

昔読んだものを大晦日と元旦に再読しました。

この本はタイトル通り、"自分の魅力や考えをいかに人に伝えるか"という啓発本なのですが、よくありがちな「プレゼンテーションのハウツー本」とは少し雰囲気が違う感じがします。
題材は、名刺作りと渡し方から人との付き合い方、企画提案の方法、自分を物語るための秘訣、ウェブを使った情報発信の仕方などなど…とオーソドックスなのですが。

堅苦しいビジネス書ではなく、「普通の人」を逸脱した藤原先生ならではの経験談や具体例が多く、ユーモアに溢れ、私はとても面白くフランクに感じたのです。

例えばネタバレしない程度に書くと、私が興味をもったのは、

・著書を出したら多くの人が出版記念パーティーを催すが、藤原氏はパーティーの代わりにある別の企画を考えた。
その企画の提案をパーティーの招待状代わりに書いて、関係者に送りつけた。(←こんなことやられたら喜んで著書買っちゃうと思う)

・大切な人を接待するなら高級な店よりも、食べられない"酒の肴"を用意した自分の部屋へ招く。
藤原氏の場合は、DIYでベランダを夜景の見えるバーカウンターに改造し、そこに買ってきた飲食物を持ち込んで飲んでいた。

助産師向けの講演で、自分の父親体験を話したことがある。
海外で奥さんが出産するとき、助産師が席を外していたので、やむを得ず藤原氏が赤ん坊を一人で取り上げたり、その後いろいろ奮闘した。(←単純にこの話がものすごく面白かった)

などです。

なんというか、人に何かを伝えるときの切り口や発想がユーモラスで引き付けられるのです。
そこで身をもって「引き付けられるプレゼンとはこういうことか」と納得できる気がしました。

もちろん、相手に受け入れられるためのテクニックの部分についても丁寧に紹介されていて実践向けです。


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さて、藤原氏はよくも悪くも強烈なキャラクターです。
先ほど挙げた3つの例も、私は面白く読みましたが、中には「やりすぎでしょ」と引いてしまう読者がいるかもしれません。

そうなんです。
藤原氏のキャラクターの良いところ、プレゼンの良いところは、"全員に受け入れられようとはしていない"ところなんです。

(出版記念パーティー代わりの企画に関して)
文章を読んでみると、かなり失礼な書き方をしています。人によっては不愉快に感じるかもしれませんが、紙一重、ギリギリのところで勝負しているわけです。

(中略)

コミュニケーションというのは、結局そういうものだと思います。
あえて割り切って、ウィットのわかる人にだけわかってもらう努力をする。
(p.44)

プレゼンテーションは、強烈であればあるほど、たとえば20人にガッと受けたら、別の20人には、ソッポを向かれる。
リスクが生じるのが嫌ならば、プレゼンテーションなんかしないほうがいい。
(p.45)


潔くてスカッとします。
平均的な日本人は「人から嫌われたくない」「万人に理解して欲しい」という考えが多いようですが、私個人はどちらかというと「分かってくれる人が分かってくれればいいや」というタイプです。
なので、それで良いのだと安心しました。

藤原先生はこれまでの経歴でも、例えば民間校長としての実績も、かなり賛否両論に揉まれながら取り組んでこられたはずです。
そんな中でほんの一部の人が藤原先生の熱い思いや新しい取り組みに賛同したからこそ、有意義な成果が出たのだなと納得しました。

仕事の場面でなくても、思いを伝え合いながらやりとりする"人間関係"は言わば小さなプレゼンテーションの集積です。
そんな身近な人付き合いの中でも、自分が誠意を尽くしてさえいれば「分かってくれる人に分かってもらえればいい」とある程度割りきれると、もう少しラクに楽しく生きられる気がしました。