とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

2018年6月の読書8冊と簡単な感想~森博嗣Wシリーズ~

読めば必ずハマると言われる、森博嗣先生のWシリーズ。
現在出ている10冊のうち、6月に8冊を読みました。



おもしろすぎる‼
なんども徹夜しかけた‼
現代社会に生きる全ての人に、読んで、生命の在り方やAIの行き先を考えてほしい‼


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この物語の素晴らしいところは、今から約200年ほど未来の世界が舞台なのに、扱われているネタが全て、本当に起こりうる社会現象として現実味を帯びていることです。

キーワードとしては、細胞移植や脳内情報のインストールに始まり、人造人間、AI(人工知能)、クローン技術などなど、、、要するに生命に関する科学やテクノロジーの話が出てきます。
今まさに話題となっている技術で理論もきちんとしているため、「この先こうなるんだろうな」という臨場感がありました。

それに絡めてサスペンス、アクション、人情ドラマ、謎解きなんかがあるので、極上のエンターテイメントです。

そしてストーリーを楽しみながらも、

人類とは何か?
生命とは何か?
生きるとはどういうことか?

ということを、深く考えさせられる仕掛けや名言が随所に散りばめられているのです。


①彼女は一人で歩くのか?


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物語の舞台は西暦2200年代の社会です。

人間の細胞から新たな生命体を作り出すテクノロジーが定着した社会では、「ウォーカロン」という人造人間が人類と共存し活躍するようになりました。

ウォーカロンは人間とは全く区別ができない外見で、人間との違いは脳に情報(思考力や感情や性格など)をインストールしていることだけです。
意図的に倫理に反しない内容をインストールしているで、ウォーカロンは概して平和的で真面目で優秀です。

一方の人間も、身体にメモリチップを埋め込んだり、怪我や病気になっても健康な細胞に入れ換えたりできるようになりました。
肉体的なボディを作り替えることができるようになり、老化しても死なない生命体となったのです。

しかし新たな問題として、人類は生殖によって子供が生まれなくなるという新たな問題にもぶち当たりました。
世界政府や科学者達はそのことに危機感を抱き対策を考えながらも、生命の在り方や概念まで従来とは変わりつつあるのでした。

さて主人公ハギリは日本の工学博士です。
ハギリ博士は国の公的機関でウォーカロンと人間の違いを識別する方法の研究をしていて、職務として国内外へ出向いていきます。
その中で様々なトラブルや疑問にぶち当たりながら、あるときは少し変わった冒険もしながら、「人間とは?」「生命とは?」「生きるとは?」「これからの人類の行き先は?」という問題に対峙していきます。


②魔法の色を知っているか?


(前置きが長くなったので『彼女は一人で歩くのか?』と『魔法の色を知っているか?』の感想は省きます)

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③風は青海を渡るのか?

チベットのナクチュには、現在では珍しく貴重となった「出産」ができる人間の種族が保護されていることが分かり、ハギリは出向いていきます。
しかしナクチュは、今まさにウォーカロンの侵略を受けんとするところでした。

更にそんなナクチュの遺跡に、ドキッとするような過去の人類のあるものが保存されていることが分かったのです。
謎多きナクチュで過ごすうち、ハギリの頭にはは、長らく人類が抱えていた生殖に関するひとつの答えがひらめきます。

生命がどのように生まれるのか、その当たり前のようで当たり前でない神秘的なプロセスを考えさせられました。
秘密の航路で辿り着くナクチュという場所や、謎を抱えるキーパーソンにもドキドキしました。



④デボラ、眠っているのか?

また別の国で見つかった、巨大な人間の頭部を模したコンピュータ。
またまたハギリは謎の解明に関わっていきます。

この巻では、AI(人工知能)の進化を題材にしています。
AIは人間といかに共存していくのか?
AIは人間を越えるのか?
AIと人間の類似点と相違点とは?

個人的にもAIについては考えることが多々ありましたが、こうして森先生の小説のなかで語られると、AIと人類の在り方のポイントが分かりやすく具体的な形で理解できました。

また本書ではサイバー空間でのAI同士の攻防が繰り広げられていくのですが、そこから「なぜ戦うのか」という人間の本質的な疑問のひとつの答えを提示されています。

工学博士が「戦争」を語るとこうなるのか…と、新たな視点にしびれました。


(それから博士が"研究"という仕事について独白していたのもめちゃくちゃよかった。私ごときがおこがましくも全てに共感。)



⑤私たちは生きているのか?

「行ったら最後、誰も戻ってこれない」といわれる、アフリカ南部の"富の谷"という場所。
ここには、かつて脱走したウォーカロンがいるという噂を聞いたハギリは真相を知るべく出向いていきます。
そこには新しい生存の在り方が隠されていました。

肝心なところをネタバレしないように書くと、肉体を捨てて、バーチャルな世界で生きる人々に出会ったのです。

タイトルの通り、生きているとはどういうことなのか?
肉体のボディの存在意義は何なのか?と考えさせられます。

またハギリ一行はこの富の谷で、噂通り「一度行ったら戻ってこれなく」なる?…という、とても恐ろしい出来事に巻き込まれます。
知性を武器にした作戦が展開されます。

主題や描写、最後まで黒幕の正体に気付けなかった巧妙なトリックなどすべて含めて、私にとってはこの作品がシリーズ内でベスト2です。




⑥青白く輝く月を見たか?

北極の海底深くに沈み忘れ去られていた艦艇オーロラに、スーパーコンピュータが搭載されているという情報を入手したハギリ博士。
今度は北極海へと向かいました。

このスーパーコンピュータは思考を出力せず、いわば引きこもりの状態で、これ以上病むと暴走する恐れがあると指摘されます。
オーロラには核弾道が搭載されており、人類の脅威となる可能性があるのです。

そんな艦艇オーロラを調査していくなか、なんと約30年前に消息を絶った有人海底探査艦がすぐに近くで発見されたのでした。
そこに乗っていたはずの調査員と、オーロラに搭載されたスーパーコンピュータの関係に、謎は深まるばかり、、、。

自ら学び賢くなっていくAIと、人間の細胞や進化を比較し、この作品では「生きているとはどういうことか?」から更に、
「成長とは?」
老いるとは?」
「生命における不完全とは何か?」
「生命はどこを目指しているのか?」
という疑問をハギリが突き詰めていきます。
ダーウィンの進化論を思い出させるくだりもありました。

青白く凍てつく氷と海の世界が幻想的で、謎解きにまたもドキドキさせられる物語です。
ハギリ博士とAIたちのやりとりに人間らしい温かさがあり、感情があることの尊さを感じてなんだか涙が出そうになりました。

私にとってはこの作品がシリーズ内ベスト1です♥



⑦ペガサスの解は虚栄か?

今度はクローン技術の話が出てきます。
子供が生まれないはずの資産家に、子供が生まれるという不思議なことが起こりました。

実はその生殖には、秘められた悲しいカラクリがあったのでした。
それをハギリが暴いていきます。

親が子供を思う気持ちや肉親関係の捉え方を、今回はとても考えさせられました。

本書では後半にセンセーショナルな恐ろしい事件が起こるのですが、それさえも「生身の人間ならではの癇癪」として描かれています。
忌むべき出来事も違法行為も、AIやウォーカロンやロボットとの相対関係の中では、人間らしい過ちだと寛大に受け取ってしまう自分がいて、それがとても不思議でした。


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作品のおもしろさのディテールを、なかなか伝えきれずに残念でなりません。
また、時間をかけて読んでいるので、所々記憶があやふやで間違えているところがあるかもしれません💦

一般的なレビューも全て満点近いです。
とにかく世の中のことを考えながら真剣に生きている全ての現代人に、このシリーズは読んでみることをオススメしたいです。


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未読ですが、このあと当シリーズは下の二冊に続いていきます。

⑨『血か、死か、無か?』

⑩『天空の矢はどこへ?』
最新刊


しかし、⑨を読む前にこの↓2冊を読んだほうがより楽しめるそうなので、こちらを読んでからにしようと思います。

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

森博嗣先生の本は、だいぶ以前に出た別のシリーズの作品が、思わぬ伏線になっていたりつながっていたりするようで、その深淵さにファンは興奮しまくりの様子。
私もそんな森作品の真髄をたのしんでみたいと思います。


ちなみに予約していたこちらの本も届いたばかりなので、並行して読んでいます♥

久々に読書で徹夜しかけた…森博嗣Wシリーズ『彼女は一人で歩くのか?』他

前回記事に書いた森博嗣先生のWシリーズ、今月に入って読み出したらドはまりしてしまいました。

お、お、おもしろすぎる・・・(;´Д`)
止まらない・・・(;´Д`)

これだから森博嗣先生の小説に手を出すの、怖かったんですよね(笑)

今出ている8冊(?)のうちの4冊を読み終わったところですが、続きが気になって気になって止まらなくて、何度も徹夜しかけました(^^;

「あと1章だけ…あと1章だけ…」の繰り返し(^^;

途中で終わったら、夢に出てくるほどです。

(↑今ここ)

(↑明日この2冊を引き取ってきます)



残り4冊‼‼
うおおおおぉぉぉおぉぉおー‼‼



(感想はコンプリートしてから書きます、、、たぶん。)

5月の読書と簡単な感想 9冊

①エベン・アレグザンダー『プルーフ・オブ・ヘブン』

よくある「死後の世界に行って戻ってきた」人の体験記ですが、彼は非科学的なことに否定的な立場だったお医者さんです。
そんな医師が死後の世界を経験したことで、霊的な話の信憑性を上げたいということなのでしょう。

彼は「自分の体験したことを世の人に伝える義務がある」との思いから、本書を執筆したそうです。

"あの世"の描写は興味深く読めました。
ただ、私には見聞したことのただの記録のようにしか思えず、彼がこの体験を通して人々に何を伝えたかったのか大切な部分が見えませんでした。

それよりピントがズレますが、大切な人が昏睡状態になったときのまわりの辛さの描写のほうが私には生々しく伝わってきたように思います。

惰性で読みきりました。



森博嗣ツンドラモンスーン』

森先生のエッセイです。
このシリーズはまだ読んでいなかったのですが、やはりおもしろい。

それにしても森先生って本当に天才だと思います。

旧帝大(しかも大学院の博士課程)を出て工学博士。

これだけでも非凡なのに、

・急に思い付いて書いてみた小説でいきなりベストセラー。
・著書はすべて人気でTVドラマ化も何本かあり。
・小説はシリーズの一作目を書いた時点で次回作と次々回作までタイトルと内容が出来上がっている。

・エッセイかなんかで未来について言及した予言が実際に当たったりする。

・執筆の傍ら旧帝大客員教授(だったかな?)。

・趣味の鉄道作りは遊びのレベルを越えて発明級。

とにかくこの方の著作数はとんでもなく多くて、実際に作品は面白いです。



林真理子『不倫のオーラ』(新刊)

不倫のオーラ

不倫のオーラ

これもエッセイです。
林真理子さんの作品は一時期けっこう読んでいましたが、たまたま新刊を見つけたので久々に読んでみました。

元々この方は劣等感コンプレックスと自尊心の塊で、女の嫌らしさを描き出す作家で定評がありますが、歳を重ねるごとに更に年々オバサンの嫌らしさが増していっている気がします。

歯にもの着せぬ持論がますます遠慮なくなったというか。
自分の裕福さをひけらかす態度に恥じらいもなくなったというか。

それでも人道的に正しいことをズバッと言っていたりするので、イラッとさせつつスカッとさせるところが流石だなぁと読み流しました。

ある雑誌のコラムのダイジェストのようで、時事ネタが多いのもよかったと思います。
2017年のネタの文庫書き下ろしなので、今読むのが旬ですね。



ハーラン・エリスンヒトラーの描いた薔薇』

文体がかっこいいのは訳者のお手柄なのでしょうか。
エリスンはSF界の巨匠らしいですが、こちらの短編集はSFとホラーが混ざったような印象の作品群でした。
一言でいうならどの作品もシュールです。

残酷な描写が淡々と描かれている作品もあり、グロが苦手な私には、好きな作品と苦手な作品がかなり分かれました。
ですがこういうシュールでブラックなものが好きな読者からは評価がかなり高いようです。

誰でも心がムシャクシャして悪態をついたり、人を傷つけてみたりしたくなるときってありますよね。
けれど日常でそれを吐き出すことはなかなか許されません。

そんな人間のドロドロした汚い部分を、代わりにぶちまけてくれてスッキリさせてくれる役目も世の中には必要です。
本書はまさにそんな存在ではないかと思いました。

読んでいるだけでダークな気持ちになり、結果的にそれをカタルシスにまで昇華させてくれる作品かもしれません。



⑤栗山恭直『世界でいちばん素敵な元素の教室』(準新刊)

前々回ブログ記事に書きました。



⑥江川多喜男『10分で分かる!かがくのぎもん1年生』

10分でわかる!  かがくのぎもん 1年生 (なぜだろうなぜかしら)

10分でわかる! かがくのぎもん 1年生 (なぜだろうなぜかしら)

前回ブログ記事に書きました。


⑦ニスベット『木を見る西洋人 森を見る東洋人』

木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか

木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか

真面目な学術書で、人は文化の違いで認知にも相違がでるという話です。

読みかけて面白かったのですが、残念ながらなんか今回この本とはタイミングが合わず途中で読むのをやめてしまいました。

読もうとすると何かしら邪魔が入るんですよね。
それで、「あ、今は読むべき時じゃないのかな」と。

そんなとき下↓の『右?左?のふしぎ』に出会ってしまい、こちらもなかなか面白くて先に読むことにしました。



⑧ヘンリー・ブランナー『右?左?のふしぎ』

右?左?のふしぎ

右?左?のふしぎ

現在読んでいてもう少しで読み終わるところです。


森博嗣『彼女は一人で歩くのか?』

ツンドラモンスーン』を読んでいたら、森先生のWシリーズを読んでみたくなりまして。
シリーズ一作目のこちらを図書館でゲットしてきました✌

面白かったら来月はこのシリーズに挑戦してみようかと。

大人が読んでもおもしろい~『かがくのぎもん1年生』

先日6歳の娘が読んでいた本のこと(お金は磁石につかない話)をブログに書いたところ、友人のMちゃんより「何の本を読んでたの?」とラインをもらいました(^^)

booksformams.hatenablog.com

ので、今日はその本の話を。



江川多喜雄『10分でわかる!かがくのぎもん1年生』(実業之日本社,2012年)

10分でわかる!  かがくのぎもん 1年生 (なぜだろうなぜかしら)

10分でわかる! かがくのぎもん 1年生 (なぜだろうなぜかしら)

「生きものの なぜ?」「人のからだの なぜ?」「みぢかなものの なぜ?」「うちゅうや ちきゅうの なぜ?」の4章構成で、子ども目線の身の回りの疑問への回答が載っています。

例えば
「どうして水の中でさかなは いきられるの?」
「ねると せがのびるって ほんと?」
「けしゴムで字が けせるのは なぜ?」
などなど、見出しは約40ほど。

親としてはすぐに答えられるものもあれば、改めて聞かれると返答に悩むものもあり、「そうか~、子どもの頃はこんなことが不思議だったよな~(^^)」と懐かしい気持ちになりました。

先生が子どもに語りかけるような語り口なので、内容も平易で分かりやすいです。



先日娘が読んでいた磁石のページは多分こちら↓の続きですね。
小銭が磁石につくか実験していましたが、もちろん家中のスプーンも試していました(笑)
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ご覧のとおり文字は教科書体なので、就学した子どもにとっては見慣れていて読みやすいようです。
やさしい童話なんかだとゴシック体もありますが、教科書体だとなんか誠実な感じがしますね(笑)



ちなみに、ちょうどアサガオを生活科の授業で栽培している長女にとっては、↓この「アサガオの種の中身」の話が一番興味深かった様子。

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何粒か種の余りがあったので、「実験に使わせてもらうね」と種さんに断って、種の中身が本に書いてある通りか観察していました。

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アサガオの種を一晩水に浸けてふやかす。
②翌日、種の表皮を剥く。
③ルーペで観察する。

結果、本のイラスト通りだとはしゃいでいました。
葉のもとと、根のもとがちゃんとありましたよ~!
白くてギュッと折り畳まれています。

さらに自分で考えたその後の観察を続けているようで、剥いた種を濡らした脱脂綿にくるんでおいたら、白かった種の中身が徐々に色づいたうえに葉と根が伸びてきた!と喜んでおります。

この経過には私もビックリです。


上の写真で、娘が指で持っているのが新しくふやかして剥いた種。
右の小さな容器に入っているのが、剥いてから数日経過した種です。


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booksformams.hatenablog.com

こちらは大人向けの本ですが、以前にも似たテーマの本を読んで記事にしてありました。
基本的に子どもの読書は放っておいていますが、たまに童心にかえり、科学の不思議を一緒にたのしむのは幸せなひとときですね。

愛すべき身の回りの物質~『世界でいちばん素敵な元素の教室』(準新刊)

本を読んでいた6歳の長女が急に顔を上げて「磁石はお金にくっつかないの?」と言い出したので、さっそく小銭と磁石を探してきて実験させてみました。

「うわ!ほんとだ!くっつかない。お金には鉄を使っていないんだね。」

その時に彼女が読んでいた本には、

"磁石は鉄でできているものにくっつく"

ことと、

"1円玉→アルミニウム
5円玉→真鍮と黄銅
10円玉→銅
50円、100円、500円玉→白銅
で出来ている(から磁石がくっつかない)"

という話が書かれていたのです。

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「1円玉1枚=1gのアルミニウム」とか「10円玉は銅製だからレモン汁できれいになる」とかはたまに思い出すことがあるけれど、そういえば硬貨が何で作られているとか殆ど考えたことのない私でした。

でも素材の違いで異なる硬貨の色、よくよく見ると個人的にはなかなかナイスなデザインだと思います。



さてアルミニウムとか銅とか真鍮とか聞くと、文系の私でさえも頭のなかに「Al」「Cu」「Cu+Zn」という元素記号が浮かんできます。

(と、ブログを書いていて咄嗟にZnが亜鉛だったかスズだったか不安になり、スマホで検索して確認しました笑。スズはSnでした、いつも一瞬分からなくなる。)

不真面目で勉強なんてしていなかった高校時代、もう20年近くも昔なのに、それでも化学でむりやり覚えさせられた元素記号だとか周期表が何となく頭に残っているとは…

ネガティブに見れば学校教育の洗脳性にもゾッとする気持ちです。



『世界でいちばん素敵な元素の教室』に本屋で出会いました。
タイトルに偽りナシ、の"素敵な"内容でした。

「元素」なんて聞くと、特に文系の方なんかはアレルギー反応が出てしまいますよね。

ですがこの本は難しいミクロの世界の観念的な話ではなく、私たちの目に見える身近な世界の"元素"を魅せてくれるのです。

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https://www.amazon.co.jp/dp/product/4866730137/

まずはオールカラーの美しい写真。

地上のどこかの景観から、その元素が物質化した姿まで、スッと目に飛び込んできます。
えっ、この元素って金属だったの?!というようなレアな姿まで載っていました。

それから元素のひとつひとつの見出しにセンスが光っていて、愛着や興味のわくようなキャッチコピーになっています。

例えば、
ラジウム(Ra)→キュリー婦人が、命をかけて見つけた元素です
イリジウム(Ir)→恐竜絶滅のヒントが、この元素にはあります
、、、などなど。


もちろん全ての元素について読破しましたが、硬貨に使われている件の元素のページにも新たな発見が。
アルミニウムは昔、金・銀・銅よりも高価だったのだとか。

ほぇ~。


それにしても周期表を眺めていると、陽子の数など元素の特性がこんなにきれいな表に納まるのも神秘的すぎますよね。
世界はなんて美しく作られているのだろう…とその規則性にもウットリしてしまいます。



蛇足ですが、何も分かっていない文系のド素人の私が昔からずっと一番好きな元素は、C(炭素)とSi(ケイ素)です。
一番といいながら、ひとつに絞れません♥

まず、ダイヤモンドと黒鉛は実は同じ元素から出来ているというのはご存じの方も多いのではないでしょうか。
その元素がC(炭素)なんですよね。
生成時の圧力と温度によって組成が変わり、ダイヤモンドになったり黒鉛になったりするのだそうです。

そんなCは有機物と無機物を隔てるほど、重要な元素でもあり、、、
生物を生物たらしめている元素というイメージをもっています。

本書ではそんなことにも分かりやすく少しずつ触れられていました。

SF的な話ですが、この宇宙のどこかにはダイヤモンドでできた惑星があるんじゃないか?なんて聞いたことがあります。
なんとも夢のある話ですよね。

Siについては、私は石英にとてつもない魅力を感じるのですが、それにはSio2(二酸化ケイ素)やマグマについてお話しせねばならず、、、
というわけでここは割愛します


理系の学生でもない限り、いまさら元素について知ったところで何も役に立たないよ、と思われる方も多いかもしれません。

ですが知っていて役に立つかどうかではなく、知って心が豊かになれることが、人類に許された楽しみのひとつだと思うのです。
それを"教養"というのかな、なんて考えたりもします。


まぁ私が本書を読んで教養が身に付いたかどうかは別として(^^;
身の回りにはなんと多様な宝物が溢れているのだろうと、染々感じ入ったのでした。

食と海外と人生を一度に楽しめるエッセイ~太田哲雄『アマゾンの料理人』(準新刊)

食、海外、アクティブな人生のいずれかに興味のある方にオススメの、個性派(?)料理人が書いたエッセイです。


アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所

アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所


【あらすじ】

太田シェフは学生時代、なけなしのスーツを着て有名レストランを食べ歩き、貯めた小遣いは全て料理に消えるというようなユニークな若者でした。

そんな料理好きが高じて、ついに料理人としてイタリアやスペインでの修行に出ます。
しかもそれが「エル・ブジ」など世界一といわれる高級レストランに勤めたり、リアルセレブのマダムの家でお抱え料理人として働いたりと、異色の経歴の持ち主です。

けれど太田シェフは、世界最高峰の料理の現場を経験するなかで、次第に"贅沢"な料理に疑問を抱いていきます。
そんな中アマゾンの料理や食材に出会い、衝撃を受けました。
飾られた華美な料理よりも、現地でしか味わえない素朴な食材にこそ、魅力を見出だしたのでした。

その後の彼も自分の店をもつという枠にはまらず、彼の料理人としての探求と挑戦は続いていきます。


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とにかく彼はフットワークの軽い行動派で、とてもカッコイイ30代だと思いました。

もう、我が儘マダムの無茶な料理リクエストだとか、レストランのコネで仕事がつながっていく話だとか、出会う人のキャラも濃いしエピソード自体が十分に面白くて、一気読みでした。

旅行では分からない、職業人の目を通した海外での暮らしや文化を知るのも興味深いです。

けれどもエピソードに埋もれず心に響くのは、彼の料理に対する哲学でした。
特にアマゾンに出入りするようになってから、彼の中の料理への熱はまた新しい熱を帯びていきます。
彼の食材に対する誠実さも加わっていくのです。

東京では、いまや世界中のありとあらゆる食材が手に入る。それが豊かさの象徴だが、アマゾンにはそこでしか手に入らないものがたくさんある。これも豊かさだ。
p.227

僕は、アマゾンの食材を、もっと広く多くの人に知ってもらいたいと思っている。
(略)
それはまさに、生物同士の真剣な命のやりとりだからだ。
p.195


まさに「食」は「生」に直結することを教えられました。

太田シェフがいきなりアマゾンに行ったのではここまで感銘を受けることはなかったと思います。
ある意味両極端というか、世界トップレベルの料理界を経験した上での「アマゾン」だからとても説得力がありました。


料理だけでなく、フィールドの異なるどんな仕事でも、自分にできること・やりたいことを何かしなくては!と思わせてくれる自伝でした。



ついでにいうと、私も料理はわりとすきなんですが「レシピは読んでいるだけで面白いもの」という感覚があることを、初めて知ったなぁ(笑)


貧富の格差の行き着く先は…ウェルズ『タイムマシン』

私は絵画など美術作品を観るのもわりと好きなのですが、古典的なファインアートよりもどちらかというと近現代のコンセプチュアルな作品の方が好きです。

特に興味をひかれるのが風刺画です。

社会を複眼的に見ていて訴えるメッセージが強いし、そこに描かれている意味を読み解くのが、頭を刺激されて何だか読書に似ている気がします。

中でも最近はポーランドのパヴェル・クチンスキーという風刺画家が気に入っていて、社会問題へのアイロニーを的確にしかも美的に表現しています。

クチンスキーは戦争やSNS中毒や環境問題など多岐にわたった題材を扱っていますが、特に彼の貧富の格差を題材にした作品が秀逸で、的を射ていていつもドキッとさせられます。

引用・参考https://matome.naver.jp/
(まとめて載っているサイトがここしかなかった)


沢山ある作品のうちの例ですが

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富裕層の快適な生活は、貧困層の身を削って支えられている。


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同じ水でも娯楽に使うか食べるために使うか。


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先進国のこどもの玩具になる車は、途上国では切実な労働。


、、、などなど。




日本国内でも周知の通り、貧富の差は大きな問題になっています。

(このあたりの話題は掘り下げると長くなるのでサクッと通りすぎますが)

私自身が今関わっている仕事でも青少年の貧困問題は大きなテーマのひとつになっていて、他人事ではありません。


「貧富の格差」について考えているうち、ふと、この格差の行き着く先はどうなるのだろう、という素朴な疑問に行き当たりました。



最近全く別の動機で読んだ古い名作が、貧富の格差の行き着く未来を描いていました。

ウェルズの『タイムマシン』です。

一応SFアドベンチャーなのですが、それよりも人類を風刺した作品という印象を受けました。


タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

光文社からの新訳がいまのところ一番いいです


タイムマシンを発明したタイムトラベラーが、80万年も未来の地球へ出掛けます。
そこには進化した人類が穏やかに暮らしていました。
未来人は美しい容姿で綺麗な衣服を身にまとい、労働もなく、一見したところ悠々自適に過ごしているようです。
しかしタイムトラベラーは、そんな未来人の平和を脅かす存在を知ることになります。
実はその存在とは、別の進化を遂げたもうひとつの姿の人類だったのです。


物語はタイムトラベラーが語った記録のような描かれ方なのですが、とても臨場感があり、大人が読んでも少年のようにハラハラするあらすじです。

言ってしまうと富裕層と貧困層がそれぞれ別々に進化した姿を描いているのですが…
どのように進化したか、その経過がやけにリアルなんです。

なるほど現実世界でも富裕層vs貧困層という二極化がそのまま進んでいけば、生きる環境や食べ物も違うし、ウェルズが描いたような人類に枝分かれしてしまうかも…なんて思ってしまいました。


ハラハラドキドキと物語で楽しませながらも、扱う題材を通して現代社会の問題について考えさせるところが、ミヒャエル・エンデの『モモ』を思い起こさせました。

ただ、ウェルズは富裕層の進化形を好ましいもの、貧困層の進化形を忌々しいものとして描いていたので、そのへんをどう解釈すべきか複雑な気持ちになりました。


タイムマシン 痛快世界の冒険文学 (2)

タイムマシン 痛快世界の冒険文学 (2)

今回私が読んだのはこちらです(ハードカバー単行本だけれどおそらく児童書?)