伊坂幸太郎『死神の精度』
わりと万人受けする小説だと思うので、とりあえず面白い小説がないかと聞かれたらこの『死神の精度』をオススメすることが多く、感想など手応えもなかなか良いです。
人間の「死」を決定する死神が、登場人物たちの最期の一週間に立ち会う物語です。
死神と言っても'あの世の番人'のような立場ではなく、人間と同じ姿かたちで描かれ、人間の社会に溶け込むように派遣され、特定の人間の死を見届けるのです。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/02/08
- メディア: 文庫
- 購入: 24人 クリック: 178回
- この商品を含むブログ (500件) を見る
本書は章ごと別々の物語の短編集のような構成ですが、どれも主人公の死神である'千葉'が出会った人間との物語になっていて、どこかで話がつながるようになっています。
章によって恋愛ものだったりサスペンス風だったり異なるテーマになっており、誰がどのような最期を迎えるか・どんな人生を歩んできたか・誰と誰がどう繋がっているのか など、謎解きや人情が織り混ぜてあるのが見所です。
「死」という結末は分かっていても、そこに向かうドラマが秀逸で目が離せなくなります。
またもうひとつ私が思う面白さは、死神のクールさかなと思います。
必死で生きて死ぬ人間に対し、死神千葉には喜怒哀楽もなく、痛みも恐怖も感じません。
そんな千葉と人間のやりとりの噛み合わなさは、滑稽でもあり、人間という存在を客観視するようでもあります。
特に印象的なのは、人間の「死」に対する千葉の見方でした。
千葉は人間の「死」を悲しいとも哀れとも何とも思っておらず、ただ当たり前に訪れるものとして冷静に淡々と扱っています。
古来人間が「死」を恐れ、この苦しみを乗り越えるために宗教や哲学などを用いて懸命にもがいてきたのに対し、ここまで当然のこととして受け流せる姿は、いくらファンタジーといえど新しい死生観に出会った気がしました。
死神ではない生身の人間には難しいかもしれませんが、生きることや死ぬことに執着してしまうとき、「死」は生き物に訪れる自然なことなのだと 千葉のように達観した捉え方ができたらラクになれそうな気がします。
クールに「死」に携わる死神ですが、人間界の音楽が好きすぎてミュージック中毒なところや、人間の感覚が分からず天然なところなど、ほどよくクスッと和ませてくれる要素もあり、ギャップ萌えも楽しめるかもしれません。