とりあえず思いつく本を挙げておきます

母になっても読書は日課。本の記録と紹介のブログです。(3ヶ月以内に出版されたものを「新刊」、概ね半年以内に出版されたものを「準新刊」としています)

食育以前に読んでおきたい「食」の本①~辺見庸『もの食う人びと』

子供に「残さず食べなさい」などと言う前に、自分たちは本当に「食」のことを分かっているのでしょうか?
少なくとも私が知っている「食文化」など、人類有史以来の数万年のうちの一瞬、さらに日本というほんの限られた範囲でしかありません。



『もの食う人びと』はジャーナリスト辺見氏が世界の色々な地域に出向き、そこに生きる人々とその「食」について取材したルポタージュです。
簡単に「食」とは言っても、貧困地域での残飯漁り、食人文化のあった集落、チェルノブイリ放射能汚染された食材などなど、、、想像を絶するダークな現実がそこにはありました。

著者のすごいところは、現地の人々と同じものを共に食べているという点です。
きれいなところだけを見聞きするのではなく、同じ目線で身体を張って、本当の意味で理解しようと努めるのはなかなかできることではありません。

日本で平均的な暮らしをしている限り、まず知ることのできないであろう実態がそこにはありました。

もの食う人びと (角川文庫)

もの食う人びと (角川文庫)


現在の地球上をみても、増え続ける人口に対し食物が危機的状況にあるのは周知の通りです。
食糧の流通は世界的に偏っており、先進諸国でまだ食べられる残飯が大量に処分されている一方で、途上国では餓死する人が日常的に存在するという現実があります。

本書で主に取材の対象になっているのは、人間として「普通の」食糧が手に入らず、その日の食事を得るために文字通り命をかけている人々が目立ちます。
彼らは美味しい料理や安全な食材などを選べるかどうかという次元ではなく、食べられるものなら何でも食べざるを得ない状況にあるのです。
要は人は生きていくためには、食べても(すぐに)死なない程度の有機物を何でもとって食べてしまうような、原始的な姿を感じました。

一方で私は毎日栄養を考えながら、簡単に扱える火・水や調味料を使い「食」を楽しんでいて、なんとも苦々しい齟齬を感じます。
ヒトという生物の野性的な部分と、知的霊長類としての社会的な部分の両極端を見た気がします。

この本は20年も前に出版されたものですが、今もなお多くの方に読まれていることを考えても、「食」は生き物の根本的な、時代や場所を越えた普遍的な問題であることが分かります。


本書の帯にあるように、「食べることは、これほど壮絶であったのか」と私も唸るほどのインパクトを受けました。





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